みづのながれ/天上の焔

□水魚の交わり/桃
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「雲長殿、いかがなさいましたか。」

「いや、何と言うほどのことでもない。兄者はいい出会いをしたものだと思っただけよ。」

その言葉の真意をつかみかねて、孔明は首をかしげた。

「そうですね。自分でも良き主君に巡り会えたと思います。仕えるにはこれ以上はありません。」

「いやいや、そういうことではなくてだな。」

「どういうことですか。」

「なんだ、覚えていないのか?あれほど仲睦まじくては、お前に嫉妬していた俺や張飛が恥ずかしいと思っていたんだ。水魚の交わりとはよく言ったものだ。」

「水魚の交わりですって?雲長殿、それは表現が過ぎませんか。」

驚きをみせた孔明に、関羽はいよいよ口角が緩むのを隠せない。

「俺ではないぞ、兄者が自分でそうおっしゃったのだ。俺たちの前で口寄せをするほどの仲なのだから、これ以上に合う言葉はないだろう。」

「口寄せ!」と、予想外の言葉に孔明は声をあげてはっとした。少し離れたところで休んでいた兵たちが孔明を振り返っていた。孔明は暴露される話に耳を疑った。「喋りすぎたわ。」とにやけている関羽の前に立つのが恥ずかしくてしょうがない。先の戦闘で関羽に自分の実力を証明したことで少し優越感にひたっていたものの、孔明は一気に形勢が逆転するのを感じた。弱みを握られたような気持ちに、孔明は関羽に軽く憎しみさえ覚えた。

「雲長殿。どういう経緯で殿が私に接吻をしたのか。それに加えなぜあなた方の前でそれをしたのか、ただ眠っていた私には皆目見当がつきません。何かの間違いではございませんか。」

明らかに顔が赤らんでゆく孔明を見て、関羽はからからと笑った。

「何を申すか。おぬし、兄者が口寄せたとき、一瞬目を覚ましたではないか。」

この言葉で孔明は完全に関羽に敗れたのであった。

殿が私にくちびるを・・・

夢ではないのか!!?


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