其処彼処

□冬日
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 息を切らして音高くドアを開けると、教室にいた全員がこちらを向いた。その数が妙に少ない。
「はよー」
「もう予鈴鳴るよ」
「わかってるって」
 浴びせられる言葉を軽くいなして席に着き、前に座る級友の背中に話しかける。
「なあ、なんで今日こんなに人いないわけ」
「さあなあ」
 釈然としないまま予鈴が鳴り、担任が教壇に立った。すかさず声が飛ぶ。
「センセ、なんでこんなに人がいないんすか」
 ちらりとそちらを一瞥し、いつも眠たげな表情の教師は無造作に片手を閃かせた。大量の紙を扇のように広げてみせる。
「これ。公欠」
「今日大会か何かあるんですか」
「いや、それにしてもおかしいでしょ。普通こんなに休む?」
 騒がしくなる教室を一睨みで黙らせ、教師は気怠げにパイプ椅子に腰掛けた。
「わからないか。冬眠だよ」
 その言葉で、すとんと腑に落ちた。
「あー……なるほど」
 耳ざとく聞き付けた教師が、満足げに目を細める。縦長の瞳孔がほんの少し広がった。
「あれ、お前も《蛇》じゃなかったっけ」
 後ろを振り向いた級友は、興味深げに身を寄せてくる。
「あぁいや、俺クォーターだから。まあ最近眠いし寒いのはそうなんだけど……耐えられないわけじゃないし」
 そう言いながらも、ネックウォーマーに腹巻き、レッグウォーマーと防寒は欠かさない。もちろん服も入念に着込んでいる。暖房の効いた室内にも関わらず、それでも手足はすっかり冷たくなっていた。眠気もある。
 もこもこと着膨れた彼を呆れたように眺めて、このクラスの半数ほどを占める《人間》である級友は、小さくそんなものかと呟いた。
 その反応にやや気落ちするが、しかしこれは仕方ない。彼にだって教師のような《猫》のことはわからないし、定時制で通っている《梟》の親友とて互いをよく解り合えているわけではないのだ。
 そう自分に言い聞かせて、窓の外を見やる。黒板に汚い字で「自習」と書き殴った教師が、パイプ椅子に腰を下ろしてうとうとと居眠りを始めた。
 どんよりと重く垂れ込めた濃灰の雲は今にも雪を降らせそうで、その上消える気配がまるでない。
 いつになったらこの重装備を止められるのかと考えて、気分が沈んだ。

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