其処彼処

□夏夜の夢
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片付けをしていた引き出しから出てきたのは、一枚の懐かしい写真だった。
「あ」
思わず手を止めて、葵は古びたそれに見入った。
白百合の柄の浴衣を着て笑っている幼い少女と、矢絣の甚平を着て狐の面をつけた少年が写っている。
その面は、今の今まで忘れていたものだった。
なぜだろう。この季節になるといつも、思い出すひとがいる。
赤い鳥居が脳裏に浮かんだ。
「キツネ……」
――また、来年の夏に
落ち着いた綺麗な声が、耳の奥で弾けて消えた。
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