其処彼処

□鳥籠
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 周りを覆っていた黒い布が外され、眩しさに少し目を細めた。
「おはよう。よく眠れた?」
「まあそこそこ。おはよう」
 覗き込んできた彼に挨拶を返し、椅子から立ち上がって伸びをする。足首の枷に繋がった鎖が涼しい音を立てる。指先が鳥籠の天井につかえて、何とも言えない気分になった。
「…………やっぱり狭い、かな」
「もう少し広い方がいい?」
 気遣わしげな申し出を、軽く首を振って断る。
「これで充分。これ以上広くしたら、貴方のスペースがなくなる」
 それでもまだ納得していないような彼は、細い格子の隙間から手を入れてきた。
 背筋と一緒に伸ばしていた翼の片方に、そっと指先が触れる。遠慮がちな感触がくすぐったく、はたはたと翼を動かすと腕はすぐに引っ込んだ。
「……本当に狭くない?」
「まだ言う」
 困ったような表情を浮かべる面差しを軽く睨み付けると、彼は後ろ向きに腰掛けた椅子の背もたれに頬杖をついた。そのままぼんやりと窓の外を見ているので、つられて同じ方向を見る。
 空はどんよりとした灰色で、白いものをちらちらと落としていた。窓枠に白く雪が積もっている。
「静かだと思ったら」
「もうストーブの季節かあ」
 しみじみと呟いた彼が、ふと腰を上げた。窓を開けて雪を掬い、白い息を吐きながら戻ってくる。
「ほら、見る?」
「寒い!」
 こちらは薄着だ。いくら寒さに強いとはいえ、外気に晒されてはひとたまりもない。
 総毛立って眉を吊り上げると、彼はわたわたと窓を閉めて引き返してきた。片手に雪玉を持って、そうっとこちらに差し出す。
「ほら」
「冷たくないの」
「うん、あんまり」
 温かい彼の掌で、雪は既に溶けかかっている。壊れないように慎重に受け取り、恐る恐る顔を近づけた。
「……冷たい」
 僅かに青みを帯びた白い塊は、すぐに掌から零れ落ちる。それを黙然と見ていた彼が、微かな笑みを浮かべた。
「同じ色だ」
「え?」
「君の翼と同じ色」
 そう呟いて、手を伸ばす。鳥籠の内側に落ちていた羽を拾った指先が、その輪郭をゆっくりとなぞった。
 その横顔に、少し胸が痛んだ。
「……大丈夫。私はいなくなったりしないから」
「……うん」
 鳥籠の内側からでは、彼を抱き締めてやることはできない。
 その代わりに頭を撫でると、顔を上げた彼は頼りなく笑った。

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