A・W・dreams

□一章 ノラ
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夕焼けに染まる城壁。

戦争中とは思えないほど静かで平和な町がそこにはあった。

レグリス国王都ニア、そう呼ばれるこの町は堅牢な城壁に囲まれ、国の中心にある。

世界は現在3つの国に分かれ、それぞれの領土を拡大しようとせめぎ合っている。

北の国ガルジニア、西の国オーズ、そして東の国レグリス。

王都ニアは国土の中でもまだ戦火が広がっていない中心にあるため平和だった。

夕焼けの中、交差する剣と剣。

その一つが弾き飛ばされた。

「…あーあ、やっぱりギルには敵わないな」

弾き飛ばされた方の狼獣人がため息交じりに呟く。

ギルと呼ばれた虎獣人がそれにこたえる。

「…だいぶ強くなった…が、踏み込みがまだ浅い、強者と戦う時それじゃあ勝てないな…ノラ」

ノラ、そう呼ばれた狼獣人は剣を拾い上げた。

「…今のですごい傷んじゃったな、新しいの頼んどかないと…」

「ベスラへの異動は明日だろう?今のうちに準備はしっかりしておけよ」

ベスラ要塞…西の国オーズとの国土境界線に立つ要塞、つまり最前線だ。

今までも実戦は何度か経験したけど、ベスラではもっと凄まじい戦闘になりそうだ。

「了解…今から工房行ってくる」

ノラは傷んだ剣を鞘に納め、訓練場を後にした。



「すいませーん、兵士用の剣一本お願いします」

奥から髭面の熊獣人がのそのそと出てくる。

「剣か…今ミスリル鋼きらしちまっててな、次届くの3日くらい後になりそうだ」

「…まじですか」

出撃は明日だってのに…。どうしよう。

「よう」

困っていると、後ろから黒い犬獣人が声をかけてきた。

「俺の貸してやろうか?2本あるし、そもそも俺剣とかあんま使わないし」

「マジで?貸して!」

彼はディン、俺と違って魔法が得意だから剣とかあんまり使っているところを見ない。

「明日出撃前に持ってきてやるから…貸しだぞ?」

「はいはい、恩に着るよ」

二人は工房を後にした。




「明日からベスラに異動か…緊張してるか?」

「んー、ギルもいるし…ディンも来るんだろ?あんまり緊張してはいないかな」

ディンは一番付き合いが長い友人だ。一緒の兵団にいるから同じ任務に就くことも多い。

今回の異動も部隊がそのまま異動なため、共にベスラに行くことになる。

「ディンが回復してくれるから俺死ねないしなー」

「…死にたいんならお前は回復しないでやるけど?」

「冗談…ディンがいなかったら俺死んでるし…感謝してるよ」

ディンは顔をそむける…照れ屋だから誉めるとすぐこうなるんだよな

「…気をつけろよ、前線は甘くないからな」

心配してくれているんだと思うとうれしかった。

「そっちこそな、じゃあまた明日」

いつも通り、寮の入り口でディンとは別れる。ディンは兵士専用の寮で寝泊まりしてるから。



俺はギルの待ってる家に帰る。

「ただいま」

「あぁ、おかえり。遅かったな?」

先ほど一緒に訓練していた虎獣人が迎えてくれる。

ギル、俺はそう呼んでるけど本名はギルディン=オーヴァル。俺やディンが所属してる兵団の軍団長。

俺が赤ん坊のころに拾ってくれて育ててもらった。親のような存在。

「ディンと話してたら遅くなっちゃって」

ギルが用意してくれた飯を食いながら今日の訓練を振り返ったりしてギルと話す。

「…俺さ、強くなれてるかな?」

今日みたいにギルと一対一で戦う(訓練だけど)ことはよくあったけど、未だに一度も勝てたことがない。

まぁ相手は軍団長、当たり前なんだろうけど…。

「ん、強いと思うぞ、俺の兵団の中では…二、三番目くらい?」

なんかアバウトだけど…

「一番は誰?」

「俺」

……

「…二番は?」

「んー、お前かクリス」

クリス…俺たちと同じ兵団に所属している白虎獣人、ディンの次によく話す。

「クリスぅ?何を基準に?すごいめんどくさがりじゃん」

「まぁそうだが…アイツはやる気がないだけだ、実際は強いぞ。あ、基準は単体での戦闘能力な」

クリスはすごいものぐさ…ってイメージ。何をするにも面倒くさそうにしてるし。

でも確かに訓練は人一倍やってた気もする。

ギルみたいに一対一で勝負してみたいな、絶対断られるけど。

「サポートとかそういうのも入れるとディンもいい線行くんだけどな、魔法主体のアイツの戦い方は単独戦に向いてないしな」

「…まぁ、俺はギルの兵団の中でベスト3くらいには入るってことか」

「まぁそうだな、うん」

いつの間にかギルは自分の分の飯をすべて平らげ、片づけていた。

「さて、俺はもう寝るぞー。明日は早いぞ、お前もさっさと寝ろよー」

そう言うとさっさとベッドに入っていびきをかき始めた。無呼吸…。

「…ねよ」

俺も食器を片づけ、寝床に入った。

ベスラ要塞…最前線か、でもまぁどうにかなるだろ…うん。

そのままゆっくりと眠りについていった。
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