Monochro†Legend

□第5夜 海に潜む者
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波の音を辿るように甲板に向かう。
少し汚れた白く扉を開けると、潮風がさぁっと頬を撫でた。


「寒っ……」


季節関係なく、海の上は寒いものなのだろうか。
時間的も、まだ太陽が昇るには早い。月と夜色の雲、星は少なく、なんだか寂しい。

船体が穏やかに揺れる。


(…これなら、予定通り着くな)


まだ任務は始まってもいないけれど、ひとまず安心する。

私は、海が見える、でもあまり船縁に近くないあたりに寄りかかる柱を見つけて座った。


「……」


風が心地いいので、一呼吸目をつぶって上を向く。
そして目を開くと、当たり前だが柱の先が見えた。


「……あ」


その先に、人が見えた。
座った時は気づかなかった。
私と同じ黒い団服を着て、一つにまとめた長い髪が風に揺れているのが見える。


「神田?」


呼びかけると、ちらっとだけこちらを見て、案の定知らん振りを決め込んだ。

マテール後、はじめて一緒の任務につく。

アレンと神田の馬が合わないのはわかるけど、恐らく神田の中では私もアレンと同類なんだろう。室長さんのところで任務の説明を受けている時から今まで、私が何を言っても無言か、『ああ』としか言わない。

すぐ慣れたから、私は苦笑いだけして海を眺めた。


ところが、


「…おい」


と、向こうから声をかけてきた。
少し遠い、波音の混じった声に見上げてみると、海の向こうを見たまま、神田は頬杖をついていた。
はじめて会った時から思っていたけれど、凄く目つきが悪い。


「どうかしたか?」
「お前のその耳」
「耳?(AKUMAの声のことか…?)」
「どの程度使える」


何かと思ったら、そのことか…。

私は、いきなり声をかけてきた理由に納得した。

アレンなら、AKUMAに反応する左目に外的変化が現れる。
でも私は、基本的に見た目の変化はない。

つまり、神田は本当に私がAKUMAを判別できるのか、を知りたいわけだ。


「実験したわけじゃないけど、少なくとも音が聞こえる範囲なら、わかる」


AKUMAの『メモリー』の音は、普通の人間の声と、明らかな違いがある。
はじめの頃は、正直怖かった。『幽霊の声』が聞こえているようなもので、慣れることができなければ、きっと戦うことが出来ないくらいには、恐怖があった。

アレンの左目に見えるものは、私にはわからない。
ただ、アレンも、私も、AKUMAに関するものは、
酷く哀しいものだと思ってる。
それは、とてつもなく、重くて、


「気味が悪いもの、ではあるかな」
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