夕陽、見上げて
□第2話
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食堂に入ると、もうすでに多くの兵士が朝食をとっていた。
同期たちが集まっているのを見つけたエリたちは、そのテーブルに席を取った。
皆それぞれ配属された班の近況を報告し合っている。
次の壁外調査が明後日に迫っていることもあり、最近はもっぱら陣形や作戦についての会話が盛り上がりを見せている。
「そういえばエリ!あなた今日誕生日じゃないの?」
ふと思い出した同期の女性兵士が声を上げると、一斉にあーーーそうだっー!と大きな声が上がる。
「君たち、公共の場では静かになさいな。ほら、隣のテーブルに座ってる先輩方が睨んでいるよ。」
エリはうんざりした顔で同期たちに注意をした。
「別にただ年を重ねただけだろ?頼むから、お祝いするとかいうなよ。」
といったものの、エリの声はどこへやら。
同期たちの間では、ケーキがどうやら、プレゼントはどうするだのと会議が繰り広げられている。
(…くそ。いつになったら祝われるのは嫌だとわかってくれるのかね?)
訓練兵の時からエリだけに関わらず、同期の誕生日はしっかりとお祝い事をする彼ら。
同期の仲がよいことはいい事だと思うし、エリ自身も他人の誕生日を祝うのは好きだが、自分のとなれば話は別だ。
祝おうとしてくれる気持ちは嬉しい。
だが、祝われたくない理由がある。
そんな彼らをなだめるのは、毎年本当に骨が折れる。
恥ずかしいから。とか、君たちと違って20超えたら誕生日もブルーな気分なんだ。などといろんな理由を付ける。
しかし、毎年毎年祝いたい気持ちを抑えつけられる彼らにしてみれば、今年こそ盛大に祝ってやるっ!という気持ちが昂るというものだ。
いっそ理由を話してしまおうかとも考えるが、自分の過去を話すのはだいぶと気が引ける。
「エリ・アクレス。ちょっといいかい?」
「…へ?」
意外な救世主登場に、思わず間抜けな声が出た。
この調査兵団の兵士長、エルヴィン・スミスだ。
「エルヴィン兵士長っ!おはようございますっ!!!!」
今まであーでもない。こーでもない。と騒いでいた同期たちも、予想だにしない人物の登場に驚きの表情をあらわにしながらも、すぐに立ち上がりしっかりと敬礼をする。
もちろんエリもそれに加わった。
「楽しい話の最中にすまない。エリにちょっと用があってね。」
「…私のような新兵に、どういったご用件でしょうか?」
「今日1日、私の仕事を手伝ってほしいんだ。秘書が急病で倒れてね。頼めるかい?」
「……はぁ。私なんぞでよろしければ。」
本人の同意を得ることができたエルヴィンは、ありがとう。とにこやかにほほ笑んで食堂を出て行った。