夕陽、見上げて

□第2話
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「なーにが『誕生日を祝わせてあげられなくてすまない』だよ。確信犯の癖に。」



朝食後すぐにエルヴィンの執務室へ来るようにと言われたエリは、部屋に入るなりエルヴィンに食って掛かる。



「あいつらの悲壮な顔見た?かわいそーに。」



エリが承諾した後、エルヴィンはにこやかに同期たちに微笑みかけ、「すまないが、今日は何時に返してあげられるかわからないんだ。」と告げた。


上官に言われてしまっては文句すら言えない同期たちは、今年も祝えないのかと肩を落とすしかなかった。



「ははっ!すまない。余計なことをしてしまったね。」


「……別にそういうことを言ってるんじゃないってば。」


「どうしても見ていられなくてね。ついお節介を焼いてしまった。」



エルヴィンは兵士として自分の上司であるだけでなく、自分の過去を知る数少ない人間の一人だ。

彼女が誕生日を祝われるのを嫌っているのを知っているからこそ、あの情景を見て見ぬふりはできなかった。





「で?いつ秘書なんか雇ったの?」


「まぁとりあえず、この書類の束を分類わけしてくれないか?」
秘書の件には一切触れずに話を進めるエルヴィンに、エリは確信を持つ。


「…やっぱり嘘なんだ。」
(この策士めっ!)


「手伝ってほしかったのは嘘じゃない。近いうちに君を呼びだそうと思っていた。君の班長には伝えてあるから、それも心配しなくていい。」



悪気のない顔でエリに書類の束を手渡した。
相当な量である。

(うげ…。)





エリの書類整理能力には目を見張るものがあり、それを見出したエルヴィンはもう他の者に書類整理を任せることが出来なくなった。


上官しか見られないトップシークレットの書類を除けば、調査兵団の書類整理の仕事は訓練兵に入団する前からエリの仕事となっていた。



と言っても、調査兵団に入団してからというものの、おおっぴらに手伝いに行くのは嫌だとエリが言い出したので、最近では業務時間外にその仕事を行うようになっていた。





「…あんなことしなくても、私は大丈夫だからほっといてくれていいよ。」
特別扱いだと思われたら困る。と口を尖らせすねるエリ。


「訓練兵を首席で卒業した新兵とコミュニケーションを取ろうとするのは、そんなにおかしなことではないだろ?」


「……。」
(あー言えば、こう言う。…そーだ。こいつはそういうやつだった。)
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