夕陽、見上げて
□第15話
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「ちょっと拍子抜けだなぁ〜。」
初めに精鋭班で15m級を討伐した後、拠点設置班は目的のポイントで設置作業を開始した。
その周りを護衛班が囲い込み、さらにそれを精鋭班が囲う。
エルヴィン班はそれのさらに外側に、等間隔に1人ずつが配備された。
個々の実力が高いエルヴィン班がいてこそ、成せる陣形である。
自分が突破されれば、後ろにいる精鋭班、護衛班に設置班の命が危うくなることを考えて身を固くしていたエリだったが、初めの15m級以降1体も巨人を見ていない。
森は静まり、さわやかな風が吹き抜けて、葉の隙間からは優しい光が漏れている。
何と穏やかな光景だろうか。
「とか言って気を抜いたらチビ巨人に襲われかけたっけ…。」
何年か前の事を思い出して、エリは再び気を引き締める。
「煙弾も上がらないし、順調にいってるのかな?」
異常を知らせるものも何一つないので安心していいはずなのだが、どうも落ち着かない。
当然、壁外なのだからいつ何が起こるかわからないのだが、いつも感じるものとは違う異変を感じる。
「どう考えても静かすぎる。ん?」
さっきまで穏やかに吹いていた風が、ピタリとやんだ。
心地よいさえずりを響かせていた鳥の声も、全く聞こえなくなった。
空気、音、風…、全ての動きが止まる。
「…なんだ?」
エリは森の出口に目を凝らす。
何かが一気に押し寄せてくるように見える。
しかし、視界には何も映らない。
用心のため刃を構える。
「巨人?でも何も…うわっ!!!」
それは突風だった。
「――っ!」
その勢いに、待機していた木から身体を飛ばされるが、とっさにアンカーを打ち、幹の太い木に登って風から身を守る。
「なんだ!?」
退避してしばらくすると、風が嘘のように止まった。
辺りには異様な静けさが漂う。
「来るか?」
エリは構えた刃に力を入れて、巨人の襲撃に備える。
目線を森の出口に向けて目を凝らす。
「いつでも来い。」
すると、立体機動の音や人の悲鳴が聞こえ始めた。
それはエリも予想外な場所。
「そんなっ!内側から?!」
「エリ!」
「ハンジっ!どうなってんの?!」
エリの配置場所のすぐ後ろで精鋭班として待機していたハンジがやって来た。
「一緒に来て!陣形の内側から急に巨人が現れたっ!」
「――っ!了解っ!!」
あれこれ状況を聞いている暇はない。
ハンジの指示に従って、アンカーを陣形の内側に打っていく。
「――っ!」
内側に向かうまでに、何人かの遺体と出くわした。
一体どこから巨人が進行したというのだろうか。
「エリっ!見える?!」
ハンジの声に、視線を前に戻す。
今は、まだ死を悼むときじゃない。と、そう自分に言い聞かせて。
「左に3体、右に2体!」
「右をやれる?」
「任してっ!」
少し先で、2人の兵士が巨人に囲われていた。
ハンジと2手に分かれて、討伐に向かう。
右の2体に焦点を絞ると、巨人の間をすり抜けていた兵士がワイヤーを掴まれたところだった。
「たっ助けてぇっ!!!!」
(間に合えっ!!!)
エリは思いっきりガスを吹かして、兵士を捕まえた15m級の巨人に近づく。
下にいる10m級が、ぶら下がっている兵士に口を開けていた。
「うあぁぁぁっ!!」
背を向ける15m級に向かって思いっきり刃を振る。
(よし、次!)
15m級を削いだ勢いを殺さずに、さらに10m級に向けてガスを少し吹かす。
ワイヤーを掴まれていた兵士は恐怖で身体が動かないらしく、巨人の口に向けて真っ逆さまに下降している。
「うらぁっ!!」
何とか兵士の片足が巨人の口元に差し掛かった時点で、項を削ぐことができた。
運よく兵士も自分を取り戻し立体機動を駆使して木に登ったのを確認して、ハンジの援護に向かう。
「ハンジっ!」
しかし、駆けつけた頃にはすべての巨人が討伐されていた。
「そっちは?」
「大丈夫。全部やった。」
「さすがエリ!もっと内側に進もう。」
内側に進めば進むほど被害は尋常ではなく、眼を瞑りたくなるような現状が待っていた。