夕陽、見上げて
□第24話(前編)
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辺りがすっかり暗くなった頃、リヴァイは仕事で必要な資料を確認するために資料室へとやってきたのだが、
まさか部屋のドアを開けただけでこうも呆れた気分になれるものかと思わずにいられなかった。
大量の資料が積み上げられて円となったその真ん中に、机に突っ伏して眠っているエリの姿を見つけたのだ。
おそらくエリは、行動することが制限されている中でもう一度資料を読み返し見落としがなかったかを確認することしか、今できることはない思ったのだろう。
リヴァイからすれば、エリのその姿は自分への反逆心とも取れた。
「……。」
「ん…。」
起こすことがないようにと、周りに積まれた資料を器用によけてエリの元までたどり着いたリヴァイは、そっとエリの頭を撫でる。
それに反応してかエリが身じろいだことで、窓から差し込んでいた月の光がエリの顔に注がれ、頬に流れていた水滴を輝かせた。
「エリ…。」
おそらくこの涙を流させているのは自分だろう。
そう思うとリヴァイの心はひどく曇っていくが、それでも彼女を地下街に連れて行くことだけは躊躇われた。
彼女を失うのが怖い。
「何が人類最強だ。…とんだ意気地なしだ、俺は。」
最近世間が呼ぶようになった自分の二つ名が皮肉に聞こえて仕方がない。
エリの側にいることが居たたまれなくなったリヴァイは、お目当ての資料をいくつか確認してメモを取ると、足早に資料室を後にした。
「何をしている。」
「う…。」
翌日、今日もあの大量の書類と向き合わなければならないのかとうんざりしながら廊下を歩いていたリヴァイは、
非番のはずのエリが自分の愛馬であるマリーに跨ろうとしているのを発見した。
「今すぐ降りろ。」
「ち、地下街にはいきません。」
「当然だ。」
馬に乗っている自分の方が何分有利だと考えたエリはこのまま逃げてしまおうかとも思ったが、
後の事を考えると恐ろしくて仕方がなかったため大人しく馬を降りた。
てっきりエリと散歩ができるものだと思っていたマリーは自分の顔をエリの頬に摺り寄せたので、
エリはよしよしと頭を撫でてそれを落ち着ける。
「言い訳ぐらいは聞いてやる。」
その動作を見ていたリヴァイは、エリの愛馬にまでも自分が責められているような気分になってそう言った。
「その…家に行こうかと。」
「お前の家はここだろうが。」
「あー、元・家に…。」
「……。」
元、と言われて思い出すのは、先日エリが誘拐された場所、エリが家族を失った場所だ。
「何しにいく。」
「何か忘れてることがあれば思い出すかと思って…。」
それはエリの嘘ではなく、
家族との記憶をたどるうちに何度か父親の口から友人の話が出たような気がしたので、
どうにかして記憶の一端でもつかめないかと考えた時に幼い時を過ごした自分の家が浮かんだのだった。
行けば何か思い出すかもしれないし、そのままとなっている家族の遺品からも何か見つかるかもしれない。
「ち、地下街には絶対に行かないっ!日が落ちるまでに必ず帰ってくる。だからっ!だから、お願い…。」
答えた直後にリヴァイが眉をひそめたのを見て慌てて口を開くと、目をギュッと瞑ってリヴァイに切願する。
リヴァイがしばらく無言になったかと思うと、踝を帰して自室へと道を引き返し始めたのでエリは驚いてその姿を追う。
「リ、リヴァイ?」
「そこで待ってろ。」
「え?」
「一緒にいってやる。」
「ほ、ホントにっ!」
「帰ってきたら書類整理を手伝えよ。」
「…いっそ地下街行きませんか?いてっ!」
どうせ付いてきてくれるならと進言したエリは調子に乗るなと頭を叩かれた。