夕陽、見上げて
□第24話(前編)
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「エリ、帰るぞ。」
「うん。」
結局、遺品からは何も見つからずエリの記憶も戻ることはなく、
そろそろ兵団へと戻らなければ向こうにつくころにはすっかり夜になってしまう。
エリは何の手ごたえも得られなかったことに肩を落としながら、かつて自分の部屋だった2階の窓から見下ろしていた。
10年以上放置されていた家はとても埃っぽかったが、そんなことは気にならなかった。
「このソファはね、リヒトのお気に入りなの。」
「弟、だったか。」
「うん。」
エリが哀愁に満ちた表情でソファを撫でると、
ソファはたっぷりと含んでいた埃が宙に舞ったのを見てめっちゃ埃っぽい。とエリは苦笑する。
リヴァイは何も言わずにじっと見つめる。
「私、すごく後悔してることがあるんだ。」
「なんだ。」
「どうして…、最後にリヒトを抱きしめてやらなかったんだろうって。」
エリは埃まみれになった自分の手を見つめると、自分の手を強く握りしめた。
「きっと、怖かったよね。なんで、ちゃんと抱きしめて、暖めてやらなかったんだろう。」
「エリ…。」
エリがソファの上で身体を丸めて小刻みに震えているのを見て、リヴァイはひどく胸が苦しくなった。
憲兵団に保護された記憶がないというエリは、
その後も精神を大きく乱していたので家族の亡骸に触れることもできなかったのだろう。
「もう、触れられないっ!ごめんねリヒト。ねぇちゃんを許して…。」
お父さん、お母さんもごめんなさい。と泣き声の間に漏らすエリの声は、リヴァイの胸をことさらきつく締め付ける。
きっとこの先もエリはこうやって自分を締め付け責め続けるのだろうと思うと、
せっかく明るい方へと歩き始めたエリを足止めしているのは自分なのだと思い知らされた。
「ごめんリヴァイ。帰ろうか…。」
まだ流れる涙を無理やり止めて立ち上がりドア付近に立っているリヴァイのところまでトボトボと歩いてきたエリを、
リヴァイは迎え入れるように両手を広げて胸の中に収めた。
「リヴァイ?」
「……。」
突然の抱擁に驚いたエリが身体を固くするが、それに気を配っていられないほどリヴァイの心は自責の念で充満していた。
エリを守るためなんて大義名分を掲げているが何のことはない、
自分の感情や思いを優先させただけで何1つ彼女の事など考えられていなかった。
そして思い出すのは、何があっても彼女を守ると決めた自分の心。
「行くぞ。」
「ど、どこに?!」
リヴァイはエリの手を引っ張って家を出た。