夕陽、見上げて

□プロローグ―836年―
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大雨。





森。





ひたすら走る。





あてはない。















【Prologue――836年――】















「はぁっ!はぁっ!―――うわっ!」





ぬかるみ。





足を取られたようだ。





あたりを見回す。





視界が悪い。





あいつらがどこから来るかわからない。





震える足。





立てない。





いやだ!





怖い!怖いっ!





なんだ?





顔の横から人の吐息が聞こえる。





息が詰まる。





うまく呼吸ができない。





目線をそちらに向ける。





ぎらつく瞳と目があった。





目を見開く。





「みーつけた。」





気持ち悪い。





虫唾が走るような、声。





「もうかくれんぼは終わりだ。」





痛い。





男に腕を引っ張られた。





汚い。





さわるな。





逃げなきゃ。





身体が動かない。





「歩けないのか?しょうがない。オレが抱えてやろう。」





男の肩に背負われる。





「お前は大事な商品だからな。希望があれば何でも言え?できる限り叶えてやる。」





地面が見える。





ぶら下がってるこれはなんだ?





あぁ、自分の手だ。





ふと目に留まったのは、手についているブレスレット。





「……おかあさん。」





おかしい。





お母さんがこれをくれたのは今日の朝だ。





誕生日プレゼントにと。





お母さんはどこ?





「ん?お母さんに会いたいのか?」





お父さんは?弟はどこ?





「それは叶えられない方の願いだ。他のを言ってごらん?」





私の身体についているのは…





「だってお前のお母さんは……」





ダレノ血?




















「死んじまっただろ?」










【Prologue――836年――】

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