夕陽、見上げて
□第7話
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「ただいまー。」
壁外調査を前により厳しくなる訓練。
ジェシカは、訓練で駆使した身体を引きずりながら自室に戻ってきた。
「2人共まだか…。」
ドアを開けても部屋は暗かったので、自分が1番で帰ってきたと判断したのだが、ドアの横にある明かりをつけた瞬間、それは間違っていたことに気づく。
「エリ!?」
ドアのすぐ近くで、エリが倒れていた。
「どうしたの?!エリっ!」
慌ててエリに駆け寄り、呼吸を確認する。
「――スー。」
「……ねてる。」
【第7話】
「ここで倒れてたの?」
「そう。ホント手のかかる子だよ、この子は。」
あの後、エリをベッドに運んだところで、ぺトラが帰ってきた。
エリが倒れていた周りには、シャンプーやら洗顔などのお風呂セットが散乱しており、ぺトラがそれを拾い集めてくれている。
「何とかお風呂には入ったけど、ここで力尽きた感じね。」
「…それほど厳しいんだろうね、訓練。」
ジェシカはエリを寝かせたベッドに座り、エリの身体中にできたすり傷や切り傷の手当てをしている。
エルヴィンの班に配属されてから、毎日こうして傷を作って帰ってくる。
訓練を終えて帰ってきたエリの手当てをすること。というのが、最近の日課になりそうだ。
「うー痛そう。」
お風呂セットを拾い上げたぺトラが、ジェシカの手元を覗き込む。
「あ、ぺトラ。そっち手当てしてやって。」
「うん。……ねぇ、ジェシカ。」
「なに?」
「ジェシカは、訓練兵の時からエリと一緒にいるじゃない?」
「うん。」
救急箱をぺトラに渡す。
「その、エリは前からこんな感じ?」
「ははっ!こんな感じってなにが?」
ぺトラの言いたいことはなんとなくわかるが、あまりにも漠然としていたので思わず笑ってしまうジェシカ。
「そっその…、こうやって傷だらけになっても何も言わなかったり…。」
今でこそ慣れたものだが、最初のころはエリが帰ってくるたびに驚いたものだ。
どうしたの?と聞いても、エリは大丈夫としか答えなかった。
「…他にも、先輩兵士達とは昔から知り合いみたいだし、夜中にうなされてたり、たまにすっごく、遠くを見てたり…。」
先ほど受け取った救急箱をギュッと抱えながら言うぺトラを、ジェシカは手当ての手を止めて見る。
「前からそうだよ。自分のことはあまり話さない。」
「そう。」
「人の話はよく聞くけどね。」
ぺトラが目線を上げると、ジェシカは手当てを再開していた。
「人の変化には死ぬほど敏感で、自然と相談役になってる。」
「だから、みんなに好かれるのよね。」
訓練がうまくいかなかった時、死ぬかもしれない恐怖に負けそうな時、いつもエリがそばにいてくれたことを思い出す。
「きっとこの子には何かあるんだろうけど、たまにどっか遠く見てる時の苦しそうな顔見ると、なかなか聞けなくてね。」
「そう、だよね。いつか、話してくれるかな?」
「さぁねぇ。やっぱり話してほしいと思う。」
「うん。…私も、エリを助けたい。力になりたいもの。」
「……そうだよね。」
2人はいつもより丁寧に傷の手当てをして、優しく布団をかけてやった。