夕陽、見上げて
□第3話
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「さぁ!いよいよお出ましだ。」
奇行種を視界にとらえた。
エリは、奇行種とかち合うポイントを割出し、作戦を練る。
見る限り平地が続いており、アンカーがさせそうな場所は皆無に近い。
「――っ、上等っ!」
不利な状況に自分自身で気合を入れる。
平地での戦い方は困難を強いられる。
最初こそ、アンカーを刺す場所が巨人本体しかないという平地ならではの戦い方に戸惑いを覚えたが、壁外調査もこれで3度目となるエリは、すでに感覚をつかんでいた。
「行って…。」
並走していた予備の馬にそっと告げると、大人しく陣形の内側へと走って行く。
それを確認して、再び奇行種に視線を戻すと、奇行種はすさまじい速度でこちらに向かって走ってきている。
「――?」
その奇行種の後ろからやってくるのは、自分の所属班の班長。
どうやら、人にはあまり興味を持たない巨人らしく、だからこそここまで突破されたのだろう。
巨人はもう目と鼻の先。
大体のシミュレーションを終えたエリは、奇行種を取り逃がさないために巨人の正面に回り込む。
接触まであと10メートルというところで、巨人の右わき腹に向けてアンカーを飛ばした。
(ん?)
巨人がとばされたアンカーにわずかな反応を示した様に見えた。
それを察知したエリが、ある程度伸びていたワイヤーを巻き取ると、巨人は猫のようにそのワイヤーを追いかけ始めた。
(あんた、人に興味ないのにアンカーには興味あるの?)
作戦変更だ。今度は巨人の左肩にもう1つのアンカーを打ち、乗っていた馬から飛びだした。
巨人はまだ最初に打たれたアンカーに夢中だ。
(ほーれほれ。エリお姉さんが遊んであげるよ〜。)
巨人の背後に回り込むためにガスをふかす。
グンっと身体が持ち上がり、エリは見事に項に回り込んだ。
「ほ〜ら、よっ!!!」
巨人がアンカーに手を伸ばしたと同時に、項を切り取った。
巨人が倒れるときにワイヤーが絡まないようにアンカーを一気に巻き取り、背中を蹴って巨人から身体を遠ざける。
馬は、綺麗に地面に着地したエリの側にすぐやってきた。
「いいこ。」
頭をなでてやると、嬉しそうに顔を擦り寄せてくる。
エリの馬は非常に彼女に懐いており、またエリ自身もマリーと名付けて非常によく育てていた。
「エリっ!」
「ネス班長!」
先ほどの奇行種を追ってきていた班長と合流する。
「よくやった!俺は班長として鼻が高いっ!」
「やだなぁ〜運が良かっただけですよぉ。」
「いたずらばっかしてたクソガキが、今じゃ立派な調査兵かー。」
「…ネス班長。親父くさいっス。」
「訂正する。お前は今でも立派なクソガキだっ!」
「いてっ!」
たった今エリにゲンコツをお見舞いしたネスは、昔エリが訳あって調査兵団に世話になっていた頃からの仲である。
ハンジと遊ぶことも多かったが、その時新兵であったネスたちがエリの遊び相手をすることも多かった。
と言っても、一方的にエリがおちょくっていただけだが。
「それで、被害はどうですか?」
「あまり人間には興味を持たなかったから被害は少ないと思うが、まぁそれにしても死人は数名出てるだろうな。」
目の前で蒸気を上げている残骸を見つめる。
壁内に戻ったら、ハンジに猫みたいな巨人がいたと教えてやろうと思ったが、その考えは捨てた。