夕陽、見上げて
□第6話―844年―
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「今どれくらい残ってんだ?」
気配を殺しながら周りの様子を見る。
ガスを吹かす音も、ワイヤーを巻き取る音も聞こえない。
(全員捕まったか?頼むよ先輩方。)
エルヴィンの勢いはすさまじく、5人の班員のうち2人を開始30分で捕まえてしまった。
それを目撃しながらもなんとか逃げ続けていたエリだったが、つい10分ほど前に再び見つかり猛追を受けた。
(ってか、なんてねちっこい飛び方すんのさ!)
エリがどれだけ不規則に動こうと、さわやかな笑みでそれを追ってくるエルヴィン。
エルヴィンの笑みに恐怖を感じたエリは、思わず本気で立体起動を動かし、それでも撒けたのはやっとといったところだった。
「恐るべし、エルヴィン。」
「それは褒め言葉かな?」
「――っ!」
斜め上の枝にエルヴィンが立っていた。顔にはさっきまでと変わらないさわやかな笑み。
「――っ!エリ!」
再び恐怖で固まった身体を何とか動かすために、エリは木の枝から自分を落とした。
落下の速度によって何とか感覚を取り戻し、再び立体起動を駆使してエルヴィンから逃げる。
「全く、あの子は…。」
エリが落ちたのかと、若干の奇襲を食らったエルヴィンは少し出遅れた。
「あと何分だ?」
「20分ってとこかしら。」
「頼むぞエリっ!」
「後輩に賭けるのは、情けないけどね。」
すでにエルヴィンに捕まった兵士たちは、森の外で待機していた。
最後の希望をエリに賭ける。
しかし、森からエルヴィンとエルヴィンに抱えられたエリが出てきたことによって、それはすぐ落胆に変わった。
「私の勝ちだね。」
さわやかに言ったエルヴィンとは対照的に、抱えられたエリの顔はかなり青ざめている。
あの後再び始まった追いかけっこは、エリが必死にガスを吹かしたことによるガス切れによって幕を閉じたのだった。
「しかし、惜しかったな。ガス切さえれしなければ、私が負けていたかもしれないよ。」
「お前…すげぇなエリ。」
「おいエリ!お前大丈夫か?」
エリを降ろしてやると、へなへなと地面にへたり込んだ。
「あなた、顔が真っ青じゃない。」
駆け寄ってきた女兵士に解放されながら、エリはしばらく「へいちょうこわい。へいちょうこわい」とうわごとのように繰り返していた。
そのあとしばらく、深夜にエリが「へいちょうこわい」とうなされていたとか、いなかったとか。