夕陽、見上げて
□第11話―837年@―
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「エリ。」
エルヴィンが呼ぶと、それに気づいたエリは本を読んでいた手を止めて、トコトコとこちらにやってくる。
風に揺れる長い黒髪がとても綺麗だと、エルヴィンは思った。
「この本を資料室から取ってきてくれるかい?」
エルヴィンはいくつかの本のタイトルが書かれたメモをエリに渡す。
「……おつかい?」
「そうだよ。」
満面の笑みを浮かべるエリに、エルヴィンは胸をキュッと捕まれた。
エリを引き取ってから、もうすぐ1年が過ぎるだろうか。
一般兵であるリヴァイは訓練が主軸になるため、業務中はエルヴィンがエリの面倒をみていた。
声も次第にでるようになり、調子のいいときはこうしてエルヴィンの執務室に来て、本を読んだりエルヴィンの仕事を手伝った。
仕事の手伝いを頼むと、役に立てるというのが嬉しいのか、今のように顔を綻ばせる。
ここ半年でエルヴィンが感じたことだが、彼女のその姿は、まるで自分の存在意義を求めているように見えた。
エリとリヴァイはそれほど年が離れているわけではないし、エリもある程度の年齢ではあるので、手がかかるということはなかった。
2人の波長が合ったおかげか、リヴァイが尽力したおかげか、エリが精神を乱して暴れたりする事は無くなった。
しかし、一日中目がうつろな時や、声を掛けても反応を示さない日がある。
雨の日はそれが特に強く表れ、目を離すことすら恐ろしくて出来なかった。
「徐々に回復、してるといいんだがな。」
エリの後ろ姿を見送りながら、エルヴィンは切に願った。
【第11話―回想 837年@―】
「――リヴァイさん。お疲れさまです。」
「……あぁ。」
通常業務を終えたリヴァイは、今日もエリの病室を訪れた。
その姿は、日に日にやつれており、顔色が非常に悪い。
たまらず、エリの世話をしていた専門医が声をかける。
「リヴァイさん、顔色が悪いですよ。ちゃんとお休みになってますか?」
「かまうな、大丈夫だ。」
専門医の心配を一蹴するリヴァイ。
しかし、それでも放っておけないほど、リヴァイは明らかに具合が悪そうだ。
「もう3日もこうしてつきっきりで……、夜も全然寝てないでしょ?それではリヴァイさんが倒れてしまいますよ。」
「……。」
「どうでしょう。今日は私がずっと側に付いていますので、リヴァイさんはお休みになっては?」
「……どうせ、眠れねぇ。」
こいつのせいで、と顎で差しながら言うリヴァイの背中は、とても小さく見えた。
詳しく事情を知らない専門医からしても、それは見ていられないほどだった。
「エリさんは、リヴァイさんの大切な人なのですね。」
梃子でも動かないだろうと判断した専門医は、少しでも気が楽になればと、リヴァイの話を聞くことにした。
「恋人……ですか?」
「そんなんじゃねぇ。ただの保護者だ。」
「ふふっ。そうですか…。」
「俺が……。」
「……。」
「俺が、こいつをこんな風にしてしまったのかもしれない。」
「それはどういう……。」
リヴァイは少しずつ、エリとの出来事を話し出した。