夕陽、見上げて

□第12話―837年A―
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目を瞑れば鮮明に浮かび上がる。





血に染まった家や家族の死に顔、そして母親の、最後の姿。







なぜ、こんな思いをしなくてはいけない。



なぜ、私は生きている。



なぜ、家族は、殺された?















「私が、東洋人だから…。」















【第12話―回想 837年A―】















「夕方、もう一度寄る。」


「疲れてるでしょ、いいよ。」


「…じゃあな。」





あの雨の日から少し経った。


リヴァイは毎日訓練の前にエリの部屋を訪ね、訓練が終わるとまたエリの部屋を訪れた。





リヴァイと交わした誓いのおかげで、少し心が軽くなった気がしていたエリ。


最初は嬉しさを感じていたが、リヴァイの体調の事を思うと申し訳なさが募った。




エルヴィンやハンジもあの日の事を聞いたのか、今まで以上に腫物を扱うような雰囲気が漂っていた。







「ふぅ…。」


部屋にあった全身鏡に映った自分を見て、ため息を吐く。




(こんなに人に気を使わせて…。)


エリはそれがとても嫌だった。



自分のため。と思わせることが、その人の身を危険にさらすのではないかと…。


自分を守り死んでいった家族の事を思い出すのだ。








鏡に手を伸ばすと、触れるのは鏡の中にとらわれた自分。


鏡に映った自分は、その顔立ちもその髪もその身体つきも、すべてが東洋人を象徴していた。



考えつめた頭は、どんどん悪い方へと思考を深めていく。









「全部…アナタが悪い。」



スーッと鏡に触れた手が、髪の毛をたどる。


母親の真似をして伸ばした黒髪は、窓から注ぎ込む強い光にさえも染まらず、真っ黒のままだ。



母親の髪は黒く艶めきとてもきれいだと感じた。


母親のようになりたくて伸ばしていたのに、自分の黒はもう…。














「穢れた…黒。」
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