夕陽、見上げて
□第18話(中編)―846年―
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「約束っ!」
「うん。絶対大丈夫。」
それは、壁外調査当日の朝必ず行われる。
エリ、ぺトラ、ジェシカの3人がしっかりと抱き合ってするのは、皆が無事に帰ってくるためのおまじない。
「必ず、生きて戻って来よう。」
3人が4年前に調査兵になった時から行われているこの願掛けが、今まで破られたことはなかった。
これからもきっとそうだ。
【第18話(中編)―846年―】
作戦当日。
最南端であるトロスト区の開閉門の前にある広場には、医療テントなどが設置され、作戦に参加しない者は立ち入り禁止となっていた。
今まで何度も壁外調査に行っているエリたちでも見たことがないような、大掛かりな設置だった。
もう1時間もしないうちに作戦が決行されるという頃、エリたち兵士はその広場に陣形を作り始めていた。
「見てよ、あれ。」
「何?」
ハンジの指さす方向を見ると、新聞や街のポスターなどで見たことのあるような顔ぶれがそろっている。
「政府の要人に、財閥やらなんやらの太っちょがいーっぱい。」
「なんで壁に登ろうとしてるの?」
「…なんでだろ?」
エリが不思議に思って口にすると、ハンジもエリと同じように首をかしげる。
2人共仲良くかしげた頭の上には?マークが浮かんでおり、その滑稽さに見かねたリヴァイが声を掛けた。
「お前らは喜劇役者か?これから壁外に行くんだぞ。」
「リヴァイ。あの人たちは何?」
「俺が知るか。」
「見物人だよ。」
声がした方に視線を少し落とすと、そこにはエルヴィンがいた。
今回の作戦で内側から指揮を執ることになっているエルヴィンは、手に分厚い資料を持ちこちらに歩いてくる。
「見物?今回の作戦に出資でもしてるの?」
「その逆だ。出資を検討するために来ている。」
「え…?」
「詳しいことはまた説明する。とにかく生きて帰ってこい。これは命令だ。」
「「了ー解っ。」」
「…。」
返事をしなかったリヴァイは、濁された話に眉を寄せてエルヴィンを睨んでいる。
それに気づいたエルヴィンは、リヴァイの言いたいことがわかっているのかいないのか、しばらくその視線を受け止めた。
「…リヴァイ、いいな。」
「あぁ。」
短く返事をすると、リヴァイは自分の隊列に向かうために馬を進めた。