夕陽、見上げて

□第19話(後編)
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「エリじゃないか。どうした?こんな所で…。」



なす術もなく立ち尽くしていたエリの側を通ったのは、団長だった。





「少しは休めたかい?そんな薄着じゃダメだぞ。これを貸してあげるから着ていなさい。」



朝の一連を見ていた団長は、エリを気遣う。



薄着のエリを見て、団長は自分のジャケットを脱ぎ、エリにはおらせた。





エリの限界になった言葉は、団長の優しさであっという間に崩壊してしまった。





「ーっ!うぅ……っ。」


「こらこら、どうした。あー、こっちにおいで。」















【第19話】(後編)















「なるほど。」


「ぐずっ!」





突然泣き出したエリに驚いた団長だったが、放ってはおけないとエリを団長室に通した。




エリは、今あったことを全て話した。


以前、エルヴィンの班に配属されて悩んでいた時にも思ったが、何故か団長には出来事の全てをすんなり話せてしまう。







「私は…強くなんか、なってなかったんです。」


「う〜ん。しかし、そんなに想ってくれる友人がいて君は嬉しいと思わないのかい?
調査兵の古株たちからは、ずっと前から大事にされているじゃないか。それも嫌なのか?」


「…。」





そう言われて考えれば、エリは無意識にリヴァイたちとぺトラたちの間に線を引いていたことに気づいた。





心から大切な仲間だと思っていても、どこかで私が年上なのだから年下の子たちの前で弱気な姿は見せられないと気を張っていたのだ。



それに、自分が気にしなかったとしても、きっと年上の癖にと陰口を言われてしまうだろうと、勝手に恐怖を感じていたのだ。



無意識にそう思って過ごしているうちに、同期たちに気遣われることを心外だと思うようになっていたようだ。



全く、素の自分で触れ合えてなどいなかった。


それに気づくと、自分がどれほど曖昧で、子どもの様に不安定であったかがわかる。




「そっか、私。…バカだなぁ。」










どうやら何かしらの答えを出したのだろうと感じた団長は、ご褒美というように微笑みながらエリに紅茶を差し出した。




しかし、エリにはもう数ステップ必要だと判断した団長は、さらに話を続ける。







「君は何故強くなりたいんだ?」


「自分の足で立てるようになりたくて……。」


「他人に頼らないことは強いと言うことかい?」




団長は自分の机に座って、エリの分と一緒にいれた紅茶をすすりながら、エリの様子をじっとうかがっている。







「私はそう、思います。」


「私はそうは思わない。」


「え…?」




では一体強いとはどういうことなのだろう。



エリは、それがずっと強いということだと思って生きてきた。




今までの努力はもしかして無駄だったのかと思うとだいぶ焦るが、そんな焦りも出せないほど、エリは驚いた。



驚いてきょとんとしているエリを見て、少し顔を緩ませた団長が先ほどの言葉を解説する。










「自分が他人の力を借りていることに自覚を持つ。そして、他人を信じて、他人を頼る力を持っている。
そういう人こそが、私は強い人だと思っているよ。
ま!これはあくまで私の持論だがね。」


「……。」












「…私が以前から君に思っていたことを言おう。」


「へ?」



団長からの解説を必死に自分の中で噛み砕いているというのに、違う話が始まったので戸惑うエリ。



団長は、そのまま話を進める。







「君が過去の自分に向き合えば、君はもっと強くなれると私は思う。」


「……。」


「強くなるには、自分の弱さを認めなくてはならない。
それをせずにただ強いと思いこむのは、ただ強がっているのと一緒さ。本物の強さじゃない。エリは今どちらかな?」


「私、は……。」


「まぁ、これも私の持論だがね。
しかし、いつまでもそうやって過去にとらわれていると、みんなも嫌気がさして去っていってしまうぞ。」


「でも……怖い。消えないんです!雨の音や男たちの笑い声とか、目の前に広がる血の海とか。何年経っても、いつまでも鮮明で…。」


「大丈夫。つぶされそうになったら皆を頼ればいい。私だって良いぞ!」


「……。」


「エリ。君の周りは素敵な人達であふれている。もう十分、戦う準備は整っているよ。」


「戦う…。」


「まぁ、ゆっくりやって行けばいい…。」


「はい…。」










伝えるべきことは伝えたから後はエリ次第と言って、団長は話を切った。




その後団長は、少し哀愁を漂わせながら紅茶をすすっていた。




団長の表情を見ながら、今言われたことを噛み砕こうと、必死に頭を動かすエリ。







しかし、思考の途中で目に入った団長室の状況にエリは異変を感じて、部屋をきょろきょろと見回し始めた。




団長がそれに気づく。










「そうだ、エリ。私はここから去ることになった。」


「え?!」




その部屋には複数の箱が持ち込まれ、壁に沿って並べられた本棚のうちの1つが空になっていたのだ。





「まだ誰にも言うなよ。正式発表はもう少し先だからな…。」


「そんな…。」



2人だけの秘密だ。と、団長が嬉しそうに人差し指を唇に当てて、エリに顔を突き出した。







「エリ。私は君たちを部下に持てて本当によかった。
奪還作戦の時も、どれほど君たちが私を守ってくれていたのかわかっているよ。」


「団長…。」


「次期団長はエルヴィンだ。支えてやってくれ。」















これも言うなよ、重要機密だ。と言った団長は、妙に晴れやかな表情だった。



エリは、エルヴィンが後継者でそれを支えてほしいと団長が言ったことで、なぜ団長がいつも以上にエリの心に踏み込もうとしたのか、少しわかった気がした。





エリは、強くならなきゃと思った。







そして、決意した。
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