夕陽、見上げて
□第22話(後編)
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「リヴァイさんっ!!」
「お前……、デカい声で俺の名を呼ぶな。」
細心の注意を払ってこっそりと動いているというのに、先ほど人探しを頼んだ青年のうちの1人が大声でリヴァイを呼び止めた。
リヴァイが機嫌を悪くして叱ろうとするが、青年はそれを制して必死に何かを伝えようとする。
「それどころじゃないんスよっ!大変ですっ!!」
【第22話(後編)】
エリが目を覚ますと、木の床が見えた。
どうやら床に寝かされているようだ。
少し身じろぎすると、頭に痛みが走り顔をしかめる。
「ん…。」
気を失う前の事を思い出と、記憶の深くに刻まれたあの男の声が確かに聞こえた。
完全に油断していた。
あの男が野放しになっていることなど、分かっていたはずなのに。
「目が覚めたかい?」
「――っ!」
突如背後から聞こえた声に、エリは身体を固くして振り返った。
「やぁ。11年……ぶりかな?」
男はにっこりと笑いながら、腰を落としてエリを見下ろしていた。
目の前にいる男と記憶の中の男とが一致すると、急に身体をピクリとも動かせなくなった。
「――っ!」
「おやおや、久々の再会だよ。嬉しくないのかい?」
「ふ、ふざ、けるなっ!」
自分でも情けないくらい、声が裏返る。
エリは、なんとか身体を動かして男と距離を取ろうと身体を引きずって男から離れるが、
男は恐怖に怯えるエリを楽しげに追いつめていく。
「もう行き止まりだよ?」
気づけばそこはもう壁際で、エリは壁にびったりとくっついて何とか男と距離を置こうと試みたが、
男はエリの足を跨いで腰を落とすと顔を近づけてのぞき込んだ。
「やめ、ろ。近寄るなっ!」
恐怖に怯える身体からありったけの力を絞り出して、その力を眼に込めると、男を牽制しようと睨みあげる。
しかし、それは逆効果だったようで、男はその顔に狂喜を満たしはじめた。
「そうだ、その眼だよ。もっと良く見せておくれ。」
「――っ!いやっ!」
男はエリの顎をつかみ、表情がよく見える位置で顔を固定した。
男に触れられた瞬間、全身に震えを覚えたエリは、目を堅く瞑ってやり過ごそうとする。
「ほら、もう一度さっきの眼を見せておくれ。この11年間、何度見たいと思ったことか。」
男が顔を近づけてくるので必死に顔を遠ざけようとするが、力が入らない。
エリは悔しくなった。
訓練兵の頃からどんな辛い訓練にも耐えて、分隊長として認められる程に力を付けてきたというのに…。
きっと今の自分の対人格闘技術なら、この男と渡り合えるはずだなのに、恐怖に浸食された身体は全く言うことを聞かない。
「――っ。」
「そう、その眼だ。」
全部この男のせいだ。
エリは悔しさと憎しみのこもった眼で男を見た。
悔しさのあまり、エリの目から一筋の涙が零れ落ちる。
「君は本当に魅力的だ。」
男はそう言うと、エリが流した涙を舌でゆっくりと舐め上げた。
「ひっ、やめてっ!!」
今までに感じたことのない気持ち悪さに、エリは男の胸を押し返して抵抗する。
しかし、男はまるでエリを味わうかのようにじっくりとその頬を舐めまわし、エリの耳元で囁いた。
「もう、逃がさないよ。」