夕陽、見上げて
□第24話(前編)
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地下街。
とある男性が路肩に落ちていた新聞を拾い上げた。
日付を確認するとそれは2、3日前のものだったようだが、男性は気にすることなく新聞を読み漁る。
この地下街で世間の状況を捉えることは至難の業なのだ。
「ーーっ!」
新聞を読みながら歩いていると、前方から複数の青年が歩いてくる姿が見えた。
目を付けられればなけなしの金すら奪われかねないと思った男性は、急いで路地にその姿を隠す。
「でもよかったっスねぇ、エリさん無事で。」
「感謝状とかもらえないッスかねぇ?」
エリか誘拐された際に、大手柄を立てた青年たちが地下街を歩きながら大声で話をしていた。
(エリ?確かそんな名前がさっき……。 )
持っていた新聞にもう一度目を向けると先日の逮捕劇が記事になっていた。
「エリ、……アクレス。」
【第24話(前編)】
「お願いっ!!」
「ダメだ。」
「……。」
「……そんな顔しても許可しねぇ。」
ある日の昼休み、リヴァイの執務室。
机を挟んで、エリは今までに見せたこともないようなふて腐れ顔をリヴァイに披露している。
披露された当の本人は、書類に向けていた顔から目だけをそのふて腐れ顔に向けると、3秒も待たずに視線を書類に戻した。
「リヴァイだって自分と向き合えって言ったじゃん。」
取り合ってもらえなかったエリは、リヴァイに背を向けて悔しそうに漏らす。
「あれぐらいの男は地下街にザラにいる。それをテメェで対処できねぇんなら許可できんのは当然だろう。」
リヴァイはその背中に向かって冷たく言い放つと、エリは勢いよく振り返ってリヴァイにくってかかる。
「だから、また付いてきてほしいって頭下げて頼んでるんでしょっ!」
「すまんな。生憎、業務が立て込んでいる。」
リヴァイはエリの顔を見ることもなく、机の上に高く積み上げられた書類達を親指でクイッと指差した。
エリはそれを横目で確認して一度だけリヴァイを睨みつけると、バンッと机をひと叩きして部屋を出ていった。
エリが申し出たのは、もう一度地下街に行かせて欲しいということだった。
確かに男を逮捕することで家族の敵は取れたような気持ちがしたが、
結局エリが資料を調べていた時に浮かんだ謎は何一つ解決していないし、本来の目的であった男性にも会えていないのだ。
「……。」
リヴァイは書類から目を離して椅子の背もたれに身体を預けると、深いため息を吐いた。
彼とて行かせてやりたいのはやまやまだがまた同じようなことが起きないとは限らないし、
もう次は助けてやれないかも知れない。
あの男に負わされた以上の傷を負わせるようなことがあれば、死んでも死にきれない。
もう2度と、エリを失うかもしれないというあの恐怖は味わいたくなかった。