陰陽師物語
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思い出の桜に飛び込んで通り抜けた先はーー。
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神無月神也は、晴明の一番弟子と言われている。
本人そのつもりはないのだが、他の者達はそう思っていて、そのせいか自分では手に負えない案件を神也に回し、自分は楽な方をするという同僚が多かった。
「手に負えないも何も、やろうとしないから伸びないのだ」
ぷりぷりと、式神の六合は怒る。
式神である彼女は、先輩達が主を小間使いのように使うのが許せないのだ。
「いいんだよ、六合。まだまだ下っ端なんだから」
言いながら、神也は陰陽庁から与えられた任務の書類を見る。
ちなみに、今日は陰陽庁への登庁は休みで自宅での就業だ。
陰陽庁に毎日居るのは管理職くらいで、一般職は外での仕事が中心なのだ。
今日の任務内容は、町議員に取り憑いた妖を祓って欲しいというもの。簡単な任務に見えるが、その政治家が厄介だった。
政治家は大の陰陽師嫌い。
『陰陽師?インチキ占い師の間違いだろう。そんな奴らの為に国の税金を使って、無駄だ!無駄!』
つい先日発売された雑誌のインタビューで答えた言葉である。
読んだ瞬間、雑誌を破り捨てたくなったのは神也だけではない。彼が破り捨てる前に、上司が捨てていた。
「気が重いけど、行くかな」
自宅のアパートで準備を整えて、いつもの黒いローブを羽織り、部屋を出た。
「この政治家は誰じゃ?」
「石原泰造という町議会議員です。夜な夜な彼の寝室から女性のすすり泣く声がするそうですよ」
六合と木霊が、隠形をしながら神也の後ろを歩き、会話を交わす。
泰造は、すすり泣く声がうるさくて仕方ないと仲の良い政治家に愚痴を言った所、気味が悪いと思った政治家が陰陽庁に相談したそうだ。
二人の話を、神也は黙って聞く。
隠形している二人の言葉は彼にしか聞こえず、町中で話に加わると一人で喋っていると思われるからだ。
不審者扱いされるのは困る。
バスを乗り継ぎ、バス停からしばらく歩くと、石原泰造が所有する高層マンションに辿り着いた。
そのマンションは一般の住人は住んでおらず、身内や秘書が暮らしているらしい。
そのため空き室も多く、妖にとっても住みやすい場所となっていた。
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