陰陽師物語

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 傘をさした幼子が、一人公園で遊んでいる。
 小さな妖と遊んでいる。
 妖の名は、すねこすり。金色の毛を持った、小さなネズミ。人懐っこい性格で、妖と気付かずに連れて帰る者も多い。
 分厚い雲から絶えず雨が降り、幼子の傘を叩く。
 それでも、幼子は夢中になってすねこすりと遊ぶ。
 だからだろう。
 幼子は、大人達が公園に入って来たのに気づかなかった。
 黒い狩衣を着て、烏帽子を被った大人達。
 大人の一人が、刀印を組む。
 そして、唱えた。

「縛!」

 幼子の体が、見えない鎖で縛られ、身動きができなくなる。持っていた傘が地面に落ち、幼子はやっと大人達に気付いた。
 幼子の目が、限界まで見開かれる。
 驚きと恐怖で、上手く言葉が発せられない。
 幼子は、大人達がどういう者達か知っていた。
 この大人達は、陰陽師ーー!

「やはり、妖と心を通じていたか」

「陰陽師に、妖に対する情などいらん」

「妖は滅するのみ」

「そうですよね。柊様」

 大人達の間から、一人の女性が現れる。
 赤い椿の刺繍をした黒い着物に、黒く長い髪。
 幼子のよく知る人物だった。

「おかあ、さん……!」

 神無月柊。自分の母親。
 陰陽庁の長官で、陰陽師を束ねる人。
 柊は、冷たい視線を幼子に向ける。
 そして、冷たく言い放った。

「神也の前で、すねこすりを滅しなさい」

 何度も妖は滅する物だと言っているのに、わからないようだから。

 言ってわからないなら、見てわからせるしかない。
 神也に縛魔術をかけた陰陽師が、すねこすりに向かって詠唱を始める。
 すねこすりの体が宙に浮かび、見えない鎖で体を締め付ける。

「やめて……やめて……!友達なんだ!お母さん、その子は何も悪い事してない!お願いだから、詠唱をやめさせて!やめろおおおお!」

「滅!」

 パンッと音を立てて、すねこすりは弾けて消える。

 久しぶりに出来た、妖の友達だった。

 呆然としながら、幼い神也はすねこすりが居た場所を見つめる。
 その間に、縛魔術が解かれ自由になったが、術が解けても神也は動かなかった。
 否、動けなかった。

「やめてって、言ったのに……!」

 キッと母親を睨む。
 母親は何も言わず、陰陽師達を引き連れて、公園に横付けされた車に乗り込む。

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