陰陽師物語
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怪我を負った神也を連れて、彼の式神たちは主の師匠である晴明の屋敷に駆け込んだ。
市の外れにある小高い山の麓にある屋敷には結界が張られており、晴明が許可した彼の関係者しか出入りできない。
鬼内裏は許可がないので入れないのだ。
傷の手当てを受けた神也は、自身が修行をしていた時に寝泊まりしていた部屋で寝かされていた。
意識はない。
鬼内裏の爪には毒があったらしく、毒抜きに時間がかかっているのだ。
眠る彼の傍らで、式神の木霊と獏が心配した面持ちで主を見る。
毛羽毛現は廊下で寝そべっている。
六合は腕を組ながら、苛立っていた。
主が倒れてから今日で二日目。晴明が祈祷をしてくれているが、目覚める気配はまだない。
「あんの告げ口魔め……!」
今度会ったら、ぶっ飛ばす……!
普段は争いを好まず、調和を大切にする六合が、珍しく物騒な事を言い放つ。
側で聞いていた毛羽毛現が同意するように、尻尾をピシリと振り、廊下から中で眠る主を見た。
鬼内裏に腹を立てているのは六合だけではない。木霊も獏も、そして毛羽毛現も気持ちはおなじだ。考えている事も。
今度会ったら、ぶっ飛ばす。
大賛成だ。
「やれやれ。揃いも揃って、殺気を垂れ流して。そんなに眉間にしわを寄せると、とれなくなっちゃいますよ」
飄々とした声が、廊下に響く。
六合と毛羽毛現がそちらを見ると、晴明が弟子を連れて姿を現した。
白い狩衣に、腰にまで届く黒い艶やかな髪は髷を結っていない。烏帽子がないと落ち着かないそうで、この時代でもそれを被っていた。
穏やかな優しい性格をした晴明は、怒った姿を滅多に見せない。
彼は持っていた扇子で、励ますように六合の肩を優しく叩いた。
修行中、神也が彼にいつもされていた動作だ。
「神也の様子はどうかな?」
「まだ寝てる」
言いながら、六合はその場に腰を下ろし、膝を抱える。
晴明は弟子の弥彦に、部屋に行くよう目配せしてから、彼女に習って腰を下ろした。
「なあ、晴明。柊は、息子を傷つけてなんとも思ってないのか?血の繋がった親子なのに。それに、鬼内裏も鬼内裏じゃ。神也に対して、やけに冷たい」
柊と神也の妖に対する意見は違う。
だから、二人の仲は冷たく、神也は神無月の家を出て、一人暮らしをしていた。
鬼内裏は柊の式神なので、彼女の意見に同意するのも分かる。
だけど……。
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