陰陽師物語
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「冷たすぎる」
六合は、親と呼べる人がいないので、親子がどういったものかはわからない。
それでも、長年人間たちを見て来て、とても大切な存在だというのは知っている。
傍らに居ると安心して、失うと悲しくて。柊も鬼内裏も一度体験しているのだから、わかるはずなのに。
柊は、神也が怪我をしたという事実を知っても、取り乱すどころか、興味ないという素振りを見せたという。
傷をつけた張本人の鬼内裏は、謝罪一つしなかった。
「二人は、神也の事が嫌いなのか……?」
六合の問いに、晴明は目を伏せる。
晴明も長いこと、柊とその家族を見て来た。二つの家族の闇を見て来た。
言葉を選ぶように、晴明は慎重に口を開いた。
「嫌いかどうかはわかりかねますが……、一つだけ言えることは、最近の彼女は暴走気味で大事な物を忘れている気がします」
「暴走?」
「私は、彼女が幼い頃から見てきました。昔から彼女は気が強く、自分の主張は曲げない。頑固な彼女をコントロールしていたのが、神也の父親です。でも、彼はもう居ない。そこからです、彼女の暴走が始まったのは」
ふぅと、晴明は一息吐く。
この話は、話すのが、重い。
過去を思い出せば出すほど、心がずしりと重くなる。
黙り込んでしまった晴明を気にして、六合が声をかけようとした時、弟子の八代結城(ヤシロ ユウキ)が慌ただしく廊下を駆けてくる。
晴明は驚かず、いつもの笑みを浮かべて結城を見た。
「どうしました?」
「神無月家の陰陽師と、長官の筆頭式神が門前に。今すぐ、神也様を返せと」
「鬼内裏が!?」
六合が立ち上がり、毛羽毛現が頭を上げる。
ぐるぐると喉を震わせ、門の方角を睨む。
今にも飛び出して行きそうな二人を、晴明が制した。
「私が応対します。皆は、ここで待っていなさい。絶対に動いてはいけません」
「でも、晴明!」
「絶対に動いてはいけませんよ。弥彦、あなたは神也を。行きましょう、結城」
六合たちに念を押し、神也は弥彦に任せ、晴明は結城を連れて門前へと向かう。
残された六合たちは、舌打ちをした。
「ぶっ飛ばすチャンスなのに!」
「全くだ!」
◆ ◆ ◆
「どうぞ、お入り下さい」
晴明が、門の外に居る陰陽師二人と鬼内裏に、許可を出す。
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