姫様
□■
1ページ/2ページ
いつも以上に主である姫君、白虹(ハッコウ)の頬は膨れていた。
主は今、縁側に座り、片胡座をかいている。ぶすっとしたまま立てた膝に肘を置き、頬杖をついて睨んでいた。
その様子を見ていた春暁(シュンギョウ)は、静かな足取りで彼女に近づき、えいっと彼女の左頬に指を突き刺した。
「む……!」
「どうしたんですか?お姫様。ドングリを頬張りすぎて吐き出しそうなリスみたいですよ」
「むぅ……!」
「間違えた。ハリセンボンだった。あっ、豚でもいいかな?」
「針千本飲みたいか?」
どこからか取り出した小刀を、彼の首筋に当てながら白虹は凄む。
それを気にせず、春暁は「冗談だよ」と微笑み、彼女の手から小刀を抜き取った。
「不機嫌なままでいられると、風花(カザハナ)が困るから、この春暁が愚痴を聞いてやりますよ」
彼女の手を取り、不機嫌な姫様を彼女の部屋に連れて行く。
どかりと、白虹は自分の定位置に腰を下ろし、春暁はその向かいに正座する。
白虹の表情は、先ほど以上にぶすっとしていた。
半分は、目の前に居る男のせいだ。春暁もそれを分かっている。
分かっていて、さらに白虹を苛立たせるのが彼の趣味だった。
「それで、今回は何に苛立ってるんだ?白虹。おやつの菓子は、お前の頼んだまんじゅうをちゃんと買って来ただろう」
「おやつで苛立つって、お前は余を何歳だと思ってるんだ!」
「おやつじゃないのか!」
「なんだそのわざとらしい驚き方!腹立たしい!そもそも、この苛立ちは全部貴様のせいだ、春暁!切れ!詫びで腹を切れい!」
飲んだくれ!似非僧侶!変態従者!ロリコン!
春暁の前で、白虹はわめき散らす。
そんな彼女の言葉を受け流しながら、春暁は一人思案した。
彼女の苛立ちに拍車をかけたのは自分だが、はて……全部とは何のことだろうか。
からかう前の苛立ちの原因は、身に覚えがない。
酒の酔いに任せて、彼女に何かしただろうか。
以前、酔っ払って、一緒に寝たことはあるが……。
(本当に寝ただけなのに、翌日風花に怒られた)
「(でも、今回は記憶が飛ぶほど飲んでねーぞ)」
うーんと一人悩む彼に、暴言だけでは気が済まないのか、白虹は手当たり次第に物を投げ始める。
春暁はひょいひょいと物をかわす。
目標に当たらなかった物が部屋の壁に次々と激突する。
.