姫様
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◇ ◇ ◇
毎年咲く桜の花のように、人の心を掴んで離さない。
今も変わらないあの日の。
ーー桃色。
◇ ◇ ◇
初めてその色を見たのは、まだ童子と呼ばれる歳の頃。
都の外で悪戯をしているのを、あの有名な大陰陽師に見つかり、彼の屋敷へ強制連行されていた途中の道。
陰陽師に手を引かれ、都に流れている川を見ながら橋を渡っていた時に、女の子が啜り泣く声が耳に入った。
陰陽師の手を振り解き、声の方へと足を進める。
その女の子は髪の毛を手拭いで隠し、川の浅瀬にしゃがみ込んで、泣いていた。
「なあ、どうしたんだ?」
僕が声をかけると、女の子はびくりと肩を震わせ、瞬き一つで振り返る。
その時、髪の毛を隠していた手拭いがズレて、はらりと川に落ちた。
目に飛び込んで来たのは、桃色の髪。
僕が目を見開いてそれを見ていると、女の子は慌てて手拭いを拾い、水を搾らないまま頭に被り、また髪の毛を隠した。
「どうして、かくしちゃうんだ?」
疑問に思った事を、直球で問う。
女の子は、クスンクスンと泣きながら、質問に答えた。
「みんなが……へんないろっていうから……」
「へんないろ?どうして?さくらとおなじいろで、かわいいとおもうけど?」
ももいろのかみ。
僕は思った事を言ったのだが、女の子は頬を赤くして、ふるふると首を振った。
「かわいくない、かわいくない」
「かわいいよー」
「かわいくない……かわいくないもん!」
「かわいいって!」
お互い、一歩も譲らない。
女の子は可愛いと言われたら喜ぶはずなのに、どうしてこの子は嫌がるんだろう。
「可愛い」は、最高の褒め言葉なのに。
僕が声を上げて断言すると同時に、風が僕らの間を吹き抜け、頬を撫でる。
女の子は、ぱたぱたと涙を流しながら僕を睨む。
手拭いから覗く髪は、可愛い桃色。
その桃色から僅かに見える、赤い角。
この時、僕は初めて、彼女が僕と同じ鬼の子だと気付いた。
では、彼女が言うみんなとは、鬼のみんなの事だろうか。
桃色の鬼に会ったのは、僕も彼女が初めて。
他のみんなは、茶色とか黒とか暗い色が多い。
可愛い桃色の髪を持つ彼女を羨ましく思って、髪を変な色と言って、苛めていたのだろ
うか。
まだそうと分かった訳ではないのに、無性に腹が立って、彼女の気持ちを考えたら、僕も泣きそうになった。
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