ふりー!

□遠い日の思い出
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「相変わらず、気持ちよさそうに泳ぐなぁ〜」
「うん!イルカみたい!」

私は、みんなに憧れていた。気持ちよさそうに水面を切り泳ぐみんなに。挑戦してみたけれど、私には泳ぐどころか水に浮くことすらできなくて、結局いつもみんなが泳いでいる姿をプールの端から眺めていることしかできなかった。

『いいなぁ、あんな風に泳げたらきっと楽しいだろうなぁ…』

そして、今日もそんな日、
だと思っていたけど…

「あれは?」
「松岡凛くん。先週ぼく達のクラスに転入してきた子だよ」

どんな子だろう?気になって見てみると、飛び込み台に一人の男の子が立っていた。水泳用の帽子をかぶっているからはっきりとはわからないが、綺麗な赤い髪が見えた気がした。そして松岡くんは水に飛び込むと、綺麗に泳ぐハルとはまた違った力強い泳ぎをする。私はその光景に目を奪われた、今でもはっきりと覚えている。


*

「あれ?お前水着は?」
『わ、わたし、泳げないから…ハルと真琴の泳ぎ見に来てるだけなの…』

なんだか情けなくて目も合わせられずに答えると、松岡くんは「ふーん」と何か考えるように首を傾げた。

「でもここにいるってことは水泳好きなんだろ?」
『…うん!好き!泳いでるの見てると楽しそうだなぁって思うし、私も泳げたらなぁって』

初対面の人に本音を漏らしてしまった恥ずかしさもあったけど、なぜか目の前の彼に伝えたくて、私は思っていたことをどんどん口にした。すると、彼は、

「ならおれが泳ぎ教えてやるよ!水泳はお前が想像してるよりもずっと楽しいんだぜ!」
『えっむ、無理だよ…。わたし浮くこともできなかったんだよ?』
「んなもん慣れだって。何回も練習してできるよーになってくもんなの!さ、行こうぜ!」

松岡くんは笑顔で私の手をひいた。私は突然のことにとっさに反応できず、彼に導かれるままにプールサイドへ、そして水の中へ…。

「へ!?ちょ、芽生!?」
「あいつ…今日水着着てたのか?」
「着てなかったと思うけどなぁ」

まぁ結局水着を着てなかった私は全身びしょ濡れですぐ水の中から出ることになったわけだが。「わりーわりー!」と笑う松岡くんを見ているとなんだかおかしくなって一緒に笑ってしまった。

『松岡くん、水の中ってひんやりしてて気持ちいいね!』
「だろ〜?夏場なんて最高だよな」
『うん、また入ってみたい』
「またおれが一緒に入ってやるよ!あ、あと、おれのことは凛って呼べよ!」
『……凛!わたしは芽生!』

いつも水のそばにいたのに、どこか水を遠くに感じていた私を凛はいとも簡単に水へと連れて行ってくれた。凛は、幼馴染のハルや真琴、スイミングスクールで出会った渚しか友達のいなかったわたしにできた、新しい友達。



これは、遠い昔の思い出。

 

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