ふりー!

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夜のスイミングクラブは少し怖い。誰もいないからってのもあるけれど、もう取り壊されるからか整備されていない廃墟のようで漂う雰囲気が怖い。真琴は昔から怖がりだからきっと内心穏やかではないだろう。更に渚がお化けが出る話なんてするものだから、真琴の顔色は青くなる一方だ。

「まぁ、こういうのって気持ちの問題だし塩でも砂糖でもどっちでもいいよね」

お清めの塩をただの砂糖と間違えて持ってきた渚はけろっとした顔で言い放つ。そういうポジティブというかなんというか、やっぱり渚は相変わらずだ。そして、空き缶が転がっただけで驚く真琴も相変わらず。

「お前は怖くないのか?」
『怖いけど、真琴を見てるとちょっと落ち着くというか…。あれかな?自分より怖がってる人を見ると冷静になるってやつかな』
「なんだよそれ、昔は芽生も俺と同じくらい怖がりだったのに〜…」
「ずっと言いたかったんだけど、メイちゃん雰囲気ちょっと変わったよね!大人っぽくなったというか」
「中身は何にも変わってないぞ。相変わらず抜けてるし」
『ひどいよハルー!』

なんて、他愛のない話をしていると休憩室に着いた。

「見てみてこれ!」

渚が指差す先には、昔リレーで優勝したハルたちの写真がある。頭の中にあの時の瞬間が蘇った。みんな楽しそうに笑っていた、懐かしい思い出。

「ハル、芽生行くよ」
『あっうん!行こハル!』

「目印ちゃんと残ってるかなぁ」
「もうちょっと急ごうよぉ…」

暗い廊下を進み、トロフィーを埋めた木のところへ向かう途中、ふいに少し離れた場所から足音が聞こえてきた。まさかと思って目をやると、そこには人影らしきものが。さすがに怖くなってハルの袖を掴んだ。

『ゆ、ゆうれい…?』
「ちょ芽生、変なこと言わないでよ」
『でも……、?』

あれ?少しずつ影が近づき、窓から差し込む月の光が影を照らした。キャップを被った頭から綺麗に流れる髪の色に私は目を見開いた。


「よう」

「まさかここでお前らに会っちまうとはな」

間違いない。身長が伸び声は低くなっているけど、赤い髪に赤い目、帽子のふちをひっぱる癖まで、何もかも変わらない。今目の前にいるのは凛なのだと私は確信した。

「オーストラリアから帰ってきてたんだ!」
「でもどうしてここに?」
「きっとこれって運命だよ!」

凛には盛り上がる渚や真琴、驚いている私のことなど目に入っていないようで、その目線はハルにのみ向けられていた。

「ハル、お前まだこいつらとつるんでたのか?ハッ進歩しねぇな」
「そういうお前はどうなんだよ。ちょっとは進歩したのか?」
「丁度いい。確かめてみるか。勝負しようぜ」

そして凛とハルはすたすたと歩いて行ってしまった。その場に取り残されてしまった私たちはお互いの顔を見合わせ、慌ててその後を追った。

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