ふりー!

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あれからハルの家に向かうとちょうど江ちゃんが出てくるところに遭遇した。

「へぇ、江ちゃんも岩鳶高校に入ってたんだ〜」
「ゴウって呼ばないで!コウって呼ばれてるんだから!」

むすっとした顔で答える江ちゃん。そういえば昔から自分の名前のことを気にしていたなぁ。おにいちゃんは男なのに女みたいな名前、自分は女なのに男みたいな名前だ、って。私は珍しくて可愛い名前だって思うんだけどなぁ。戦国時代に出てくるお姫様と同じ名前なんて、ちょっとした自慢になるのに。と考えていると渚もそう思っていたみたいで、

「え、なんで?戦国武将、浅井長政の三女と同じ名前のゴウでしょ?」
「そうだけど…普通に呼べばコウなんだからそこは素直にコウって呼ぼうよ。それが優しさってもんじゃないの?」
『乙女心は複雑なんだよ、渚』
「そういうもんなの〜?」
「えっと、そんなことより…」
「そんなこと!?」
「ごめん…。でも、何しにハルの家に?」

真琴の質問に途端に顔色を変える江ちゃん。どうやら凛のことを聞きに行くつもりだったらしい。

「凛、やっぱりオーストラリアから帰ってるの?」
『あれは幻じゃなかったんだ…』
「幻?……先月帰国して、この春から鮫柄学園に。あそこ全寮制ですからうちには帰ってきてないですけど」

凛が入学した学園は有名な水泳強豪校だ。やっぱり凛はすごい。オーストラリアでもきっと厳しい練習があったと思うけど、それでも水泳を続けて日本に帰ってきても水泳だけを追っている。昨日ハルに勝負を挑んだのも、自分の実力を試したかったからなんだろう。

「えっと、芽生…先輩」
『な、なんか江ちゃんに先輩って呼ばれるの不思議な感じがするなぁ。なになに?』
「先輩はおにいちゃんから何か聞いてませんか?」
『え、えっと…何も聞いてないよ?会ったのも昨日が初めてで…』
「そう、ですか…。おにいちゃん先輩と仲良かったから、何か連絡入れてるかなぁって思ったんですけど…」

残念そうにうつむく江ちゃんになんだか申し訳ない気持ちになる。でも、今私から言えることが何もないのも確かだ。今の凛のことを私は何も知らないのだから。




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