赤黒@

□偽り
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冷えた秋風がふく夕方の帰宅路を僕、黒子テツヤは歩いていた。
「今日は一段と寒いですね。」
  手を擦り、白くなった吐息を眺めながら僕はつぶやいた。
「本当に寒いな。」
  隣を歩いていた赤司君はそう言うと、僕の手を握った。
「赤司君?」
  赤司君は普段、人目のつくところではこういうことをしないので驚き、不思議に思った。
「手が冷えたからな。」
赤司君は当然のように答えた。
しかし、それでも僕が不思議そうな顔をしているので、赤司君は付け足すようにいった。
「テツヤに甘えたくなった。」
 赤司君は微笑みながら平然と言う。
「君は、恥ずかしいことを平然と言いますよね…。」
「何か言ったか?」
赤司君はまるで、聞こえていないかのように言った。
本当は聞こえてるくせに…。
「何でもないです…。」
僕は赤くなった顔を隠すために俯き、誤魔化すようにマフラーに顔を埋めた。
   僕と赤司君は男同士だが付き合っている。
付き合い始めたのは今年、僕が1軍に入って少したった頃だった。
告白は赤司君からだった。今日みたいに2人で帰っている時に赤司君はいつものように言った。もちろん、僕はすぐに返事をした。僕が赤司君のことを好きだったというのはもちろんだったし、そのとき僕は嬉しくてたまらなかったのだ。キセキの世代(彼)の横にいてもいい存在なのだと、彼に追いつけたのだと、認めて貰えたのだと思った。
   しかし、それは僕の勘違いに過ぎないことを気付かされたのはそれから間もなくのことだった。
彼を好きだからこそ、彼の嘘には簡単に気付いた。たぶん、赤司君は気付いていないでしょう。彼が僕に愛の言葉を言う時、彼は顔は笑顔でいるものの、目は少ししか笑っていないのです。
    赤司君の告白は僕にやる気を出させるためだけのものであり、赤司君の暇つぶしの道具に過ぎなかったのだ。
    僕は俯いていた顔を上げ、僕の隣を歩く赤司君の横顔を見つめた。
「(赤司君にとっては遊びでも、僕にとってはー。)」
   そんなことを考えていると、ふと赤司君が僕のほうを向いた。
「テツヤ。」
  愛おしいその声で、僕の名前を呼ばないで下さい。また勘違いをしてしまうから。
   僕は考えを顔に出さないように平静を装う。
「何ですか?」
   やめてください。赤司君の次の言葉はわかっているから。そして、その言葉で僕が傷付くことも。だから、もう…
    だが、赤司君に僕の心情など知る由も無く、赤司君は微笑み、言う。
「××している。」
その愛の言葉が嘘だということを僕は嫌という程知っている。
    でも、僕も微笑みながら言う。
「僕もです。」
それが偽りの愛の言葉だということはわかっている。彼が僕を操るためのエサだとも。飽きたら捨てられることも。
   それでも、それでも僕は君を××しているから。 
   だからせめて、せめて彼が僕に飽きるまでの少しの間だけでもー
 

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