words

□真紅
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人は、死人に会いたい一心で千年伯爵に縋るのだ。







神田が死んだ。

真夜中、自室に遺体を運んだ。頭や腕はぐったりと垂れて、体は生前より心なしか重い。
ベッドに寝かせ君の周りに赤い薔薇を敷き詰めた。以前、僕は絶対君に似合うと主張していたのだが、君はくだらないと取り合わなかった。
僕の予想通り、やはりよく似合っていた。赤は君の黒髪をより一層黒くした。思わず手を伸ばし、手の甲で君の頬に触れた。青白くなった肌がくすんで見える。冷たい。手が頬に吸い付いてしまったようだ。顎までゆっくり滑り下ろした。

「何で死んだの?」

声が響き渡る。しかし、すぐに元の暗闇に戻った。胸がむかむかと疼く。机の引き出しに、確かナイフが合った筈だ。



ナイフの刃を出し、切っ先を彼の胸に突き立てた。力を込め、押し込む。ずぐり、刃が肉に沈む。両腕にじわりと重みが伝わる。肉の厚み。ナイフは刃の根元まで沈んでいた。僕はゆっくり息を吐いた。生暖かい空気が頬に触れた。
ナイフは胸に沈んだまま。どくどくと心臓が早鐘を打つ。何も起こらない。何も。僕はナイフを抜いた。すんなりと抜けた。君は横たわったたままだ。血が溢れ出したりしない。ナイフに僅か赤黒い血液がこびりついているだけ。薔薇は爛々と真っ赤に咲き誇っている。僕の胸を圧迫するように何かが押し寄せた。止めようとは思わなかった。ナイフを床にたたき付けた。君が横たわるベッドに突っ伏した。花の強い芳香。赤い薔薇を握り潰した。



扉が世話しなく鳴った。顔を上げた。扉が鳴っていた。扉に向かったが、足が重いからゆっくり歩いた。やっと扉に辿り着いた時、鳴り止んだ。僕は扉を開けた。

「あっ。」

リナリーだった。目に涙をいっぱい溜めていた。

「アレン君、神田の…体がないの、どこにも、ねえアレンく」
「神田は…、」

自分の声が高く震えている。寒気がする。全身から全ての血液が一気に流れ出てしまったようだ。

「…どうしたの?」

鳴咽を喉で堪え、口を手で塞いだ。なんでもないという意味で首を横に振った。涙がどんどん流れてきた。零れた。リナリーは不安そうに僕を見て、無言で抱きしめた。僕は肩を震わせて泣いた。




人は千年伯爵に縋る。
死人に会いたい一心で願う。










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