風華月炎

□大人気ない三人。
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アナタたちが逢いに来てくれて嬉しかった。
 「傍にいてあげる」と言ってくれて嬉しかった。
  古の時代から変わらない、優しいアナタたちの心――……。



大人気ない三人。【風魔朝燈・夕妃・王牙+神藤和泉】



「しっかし、まぁ…」

この惨状をどうしようか、和泉はそれだけを考えた。
ことの始まりは数十分前に遡る。

この日は三年の進路相談の内の一日だったので、今日が相談日になっている生徒の親たちが学校に続々と来校していた。和泉も今日が相談日で、父親である和仁は仕事が忙しく、しかも海外にいる。和仁本人は仕事を棄ててでも行く気だったらしいが、周りが必死に止めたので代理の風(かざ)が来る予定になっていた。
風は勇祐の八つ違いの兄で、東京を拠点としているので和仁が渡米する際に保護者代わりを頼んだのである。しっかりとした性格の風はその若さで一つの会社を経営するやり手でもある。……表面上は。
それは今は置いておくとして、その彼から今朝「急な会議が入ったので、行くことができなくなった」という電話がかかってきたのである。彼が言うには、代わりの者に頼んだということだったが、誰が来るのかを聞く前に電話を切られてしまった。よっぽど急いでいたのだろう。きっともう、電話もメールも繋がらない。学校に着いたら、その『誰か』が電話なりメールをしてくるだろう。和泉はそう思い、学校に来たのである。


そしてこの現状。
誰かの歓声で廊下を見ると、見たことのある男女が何やら言い争いをしながらやってきていた。

「うわ、すっごい美人な人だな」
「誰かの母親…じゃねえよな。姉さんか?」
「隣の男の人もカッコいい!!」

廊下や教室にいる生徒の口から漏れるのはそんな言葉たち。
長い黒髪を一つに結び、瞳は切れ長の袴を着た女性と、さっぱりとしたやはり黒髪で、どちらかというと明るい性格であろう男性は共に身長は高く、どうやら生徒たちは彼らに憧れを抱いた様であった。

和泉はその様子を見ながら、ゆっくりと二人に近づいていった。

「風が言ってた代理って、朝燈と夕妃だったんだ」

和泉に話かけられた途端、今まで言い争っていた二人はその行動を止めた。

「和泉!ちょ、マジ聞けよ。頭領は俺に頼んだってのにこの女が…」
「ちょっと朝燈?何言ってるのよ、頭領は私に言ったのよ」

二人はお互いが風に頼まれたと言って退かない。

「えっと…」

風のことなので恐らく二人で行けと言ったのだろうが、当の二人は自分だけが行きたいという思いからお互いそれを認めない。
困ったなあ…と和泉が思い始めた頃、またある人物が近づいてきた。

「おい、次はお前だろ?さっさと来い」
「お…風雅先生!?」

和泉の腕を引っ張り歩き出したのは、和泉のクラスの副担任の風雅北斗。数学担当でサッカー部の顧問もしている、女子には「ワイルドでカッコいい!!」男子には「話しやすい兄貴みたいなカンジ」…と、男女共に人気の教師だ。

「ちょっと王牙?」
「お前何やってんだよ…」

気づくと、先ほどまで言い争いをしていた二人が和泉たちの進行方向を塞いでいた。

「…オウガって誰ですかー?俺は風雅北斗ですけど。ってか、コイツもう時間なんで連れてくから」

そう言い、さっさと教室へと向かおうとする風雅。
しかし朝燈と夕妃はそれを認めない。

「何言ってるのよ?」
「頭領に頼まれたのは俺なんだから!!」
「は?風から連絡、俺にもきたんだぜ?やっぱ頼れるのは親友のオレだろ?」
「勝手に頭領の親友名乗ってんじゃねえよ!」
「絶対、教員免許偽造でしょアンタ。大体ねえ……」

終わりそうのないこの言い争い。いい大人が三人、子供じみたことをしている。しかも、その内の一人は怪しいとはいえ一応教師である。周りにいた生徒達も目を見開いて彼らの様子を見ていた。


そんなこんなで話の頭に戻るわけである。

「ねえ、ちょっと……」

和泉が話しかけても、三人には全く届いていない。
周りはいつの間にかギャラリーでいっぱいだった。

「…どーすんのよコレ」

和泉が困り果てた頃、救いの声が聞えた。

「和泉、次だよ」
「あ、ありがとう。圭」

和泉の前に面談をしていた圭介が声をかけてくれたのだ。

「風雅先生と…誰?」
「私の今回の保護者代理だったんだけどね。ごめん圭、時間ないから私行くけど、あの人たちあのままでいいから」
「わかった。頑張ってね」

圭介にそう言うと、和泉は未だに言い争いをしている三人を置いて面談を行う教室へと行ってしまった。



「あれ?神藤さん、保護者の方は?」
「いえ、今回は来れないようなのでいません。それに、私は以前と意見は変わっていないので…」


和泉が居なくなったことに気づいていない三人は、結局、面談が終わった和泉が帰ってくるまで言い争いを続けたのだった。

END

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