BOOK・・
□わっちが選んだものー永遠の花という名のー
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それに気づいた時には、胸のときめきの前に胸からこみ上げてくる重みで、苦しくなっていった。
ーーーけっして誰のものにもならない。
そのくせ誰の心にも、いつの間にかいる。
わっちの心を掻き乱す最低な男だと、自分にいいきかせた。
それなのに、あんな一言でわっちの心は晴れ晴れとした。
ーーーでも、今は其奴がいない。
かぶき町にも・・。
吉原にも・・。
わっちの側にも・・。
誰にも別れもつけず。何処へ・・。
目から涙が溢れ出しそうになるのを抑えるかの様に、煙管の先を強く噛んだ。
『月詠。』それに気づいたのか日輪は、側にそっと近づき頭を撫でた。
その手は、子供をあやす様にそっと触れた。
撫でられる月詠は、その手に少し甘えた。
ーーー日輪には、何でもお見通しなんじゃな・・。
月詠は、少し落ち着いた所で、日輪に問いた。
『日輪、ひとつお願いしてもいいか??』
『ああ。もちろんいいよ。なんだい・・??』
『わっちの着物を仕立て上げてはくれぬか・・??』
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いつもとは違う服で、早朝から誰もいない道をかけ走った。
この服を一番に見せたい者へ向
かう様に。
月詠は墓場に着いた。
花と風呂敷を持って墓石の前に立ちすくんでいた。
その墓石には『坂田 銀時』の名が刻まれている。
『銀時・・久しぶりじゃな。ここに来るのはわっちは、初めてで。辺りを探しまわったわ。』月詠は、そう言いながらも前から知ってるように淡々と、花を飾り、風呂敷からは団子を出し、供え物として置いた。
『銀時・・。わっちは、ぬしの前でああ申していたが何も出来ずにここまで来た。だが、そんな事をしても変わる事も出来ないと気づいたんじゃ・・。だから・・。』
銀時と刻まれている墓石は、何も答えてはくれない。そんな事知っているのに・・。言葉が上手く出てこない。
ーーーあの時みたいに、愛染薬を吸っていた時みたいに。ポロポロと言葉に出せばいいのに。
今までずっと隣にはいてはいけないと、少し離れていたわっちが、あの時自ら隣に歩みよった時みたいに・・。
『ただでさえ、こっちはいっつもどっかのバカの副流煙まき散らされてんだからよォ。』
その言葉が一瞬頭をよぎって、月詠の口から言葉を濁らせた。
ーーーそうじゃ。これで充分だと感じたんじゃ。
言葉にしなくても、わっちから
の行動を起こさなくてもぬしは・・。
月詠は墓石に笑いかけながら『銀時。わっちはこれで、さよならとしよう。』
何も告げぬまま、墓場を立ち去った。
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吉原を見渡せる部屋に、月詠は引き窓に持たれかかっていた。
『春でも、冬でも。わっちはたまにこうしてぬしの隣で・・。』
ーーーわっちの心にいるぬしの隣で
誰にも告げず、ぬしにも告げず。
これから先も、この想いを秘めたまま。
ぬしの側にいることが、わっちの幸せでありんす。
ぬしが、わっちの側にいてくれた時の様に・・。
と月詠は、心に告げた。そこからは、月詠の目から涙が溢れ出していた。
その涙が、いつもの着ているはずの紅葉柄の着物ではなく、橙色をした花柄が散りばめられていた着物に落ちていった。
ーーーわっちは、枯れる事もしらん花を美しいとは思わん。
何度散っても返り咲く。
だから・・恋は美しいのじゃ。
いつかまた巡り会えたら、きっとわっちはぬしの側で恋してるのだから。