闇と月が交わる刻に
□第2話 魔物使いの封印
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いつからだったろうか。
オレは赤色の瞳の魔物、と呼ばれる人種ーー彼らを物を通して封印することができた。
だがそれを広言はしなかった。
この地は、他の国と違って、彼らと共に生きることが自然だったから。
彼らを忌避する人も、当然いる。
けれども、学園で習ったことが事実なら、彼らは同じ人間だ。
ただ、不幸が重なってしまっただけの。
そりゃあ、普通の人間より種族間で共有する力は強大で、悪く使えば、固有能力の低い人間はあっという間に殺されるかもしれない。
とはいえ、そんな危険な魔物なんているのは、今や怪物王率いる隣国と、その国境沿いの村や町での話だ。
カナリア学園のある都市には、火の粉は飛んでこない。
……あくまで、直接的には、という前置きが必要にはなるが。
「ウィル、どうしたの?」
きょとんとした目で、同じカナリア学園冒険学科の教師であり、同僚のクラハが首を傾げた。
「いや、なんでもないよ」
オレより頭一つ分背が低い彼女の赤毛を見やる。
座学専門であるオレと違い、クラハは実技演習もこなす、エリートの女性だ。
まあ、槍使いのカイ先生とか、規格外の人間なんかはこの学科には多いから、彼女が一番というわけではないが。
「身体、また悪くなったの?」
「いや、ちょっと考え事をしてただけだよ」
心配させぬように、笑顔を作る。
身体が弱いのは、本当のことだから。
実技は他の先生に任せているものの、なんとか自力でもやっていかねばならない、と思いはするのだが。
どうも、上手くは回らない。歯痒いが、こればかりは無理できない。
「身体は素直だよねぇ」
「そうね、ウィル」
おかしそうに笑うクラハは、満面の花を想起させる、心安らぐものだった。
「……ねえ、ウィル」
ふと、暗い声音が耳に入る。
クラハは、一転して困ったように、けれどもどこか覚悟を決めた決意の固い目をして、言った。
「ちょっと、付き合って欲しいんだけど……いいかしら?」
もじもじと、彼女の頬がほんのり赤らむ。
書類仕事を放り出したい衝動にかられた。
が、さすがに教師の本懐を捨てるなんて真似は出来ない。
「今日はテストの採点があるから……違う日、ならいいよ」
柔和な笑みを浮かべながら、心の中では誰にも気づかれずに涙する。
同僚というより、女として、といっちゃ悪いかもしれないが、その勇気を踏みにじった感じになってしまったのだ。
申し訳なさに顔を上げると、彼女は、ちょっと安堵してるように見えた。
「なら、明後日は? 学園も休みだから、どう、かしら?」
「うん、明後日なら大丈夫だよ」
答えると、彼女はぱあっと顔を綻ばせた。
「じゃあ、ね、その、朝に、……いつくらいがいいかな……」
指を折り始めるクラハは、悩んでいるようだった。
「どこかに、一緒に行くのかい?」
「あ、うん。遠いから、そういえば、ウィル先生は寮暮らしでしたっけ」
「そうだよ。クラハ先生は、学園の外でしたよね」
刹那、その表情が辛そうに歪んだ気がした。
気のせいだろう。
「ええ。でも近いところだから、えっと、学園の図書館で待ち合わせするのはどうかしら」
「あそこは年中無休だったね」