自作小説
□ひと呼吸おいて
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暗闇。それが俺の視界を埋めた。左手でブルブルとスヌーズする愛機のスマートフォンの画面を見ると8時半の時刻。手馴れた手つきで画面をスライドするとスヌーズが一時止まる。
「あ…っ」
そこで俺の目はこの暗闇になれていく。
うん。俺の部屋だ。
微かな檜木とカビの臭い。壊れて点かない豆電球。そして、
「弾くか」
布団以外に何も家具の置かれていないこの部屋に、その窓際にポツリと寝かされた栗色のストラトギター。
俺はそいつをそっと抱き起こすと左腰に抱え、ネックを右手で締めて左手をボディの前に構えた。
すると、そこで気付く。
「ピック、どこやったっけか…」
昨日はハウスから帰ってそのまま寝ちまったから…。
「ん…?」
思いつきからジーパンの尻を探る。
「あっ、これこれ」
予想通り尻ポケットにあった。演奏が終わると無意識にピックを尻ポケットに入れてしまうクセもそろそろ治さないと駄目だな。
「ふっ」
意識を集中させる為の儀式として軽息を吹く。これで準備は完了。あとは弾くだけ。
まずは、6弦から1弦。
左手のピックを人差し指と親指で摘み、あえて中指の背でストロークする。
「さすが、ズレテないな」
自分のチューンした相棒に感心しながら、今度は中指も加えてピックを持つ。
本番だ。それくらいの気持ちで弾く。でなけりゃただの音が鳴る糸と木片だ。
「ふっ」
そこに俺は吹き込む。ただの物からこいつを楽器へと変える為に、
左手を6弦に引っ掛けて、床に向けて掻き下ろす。
それぞれの弦にピックが触れる度に、弦の螺旋の凹凸が振動してミ、ラ、レ、ソ、シ、ミの順に音が鳴る。
そしてまたミ、ラ、レソシミ。ミラレソシミ。
もう一度、ミラ――zyrrr!
「っ?」
少し驚いた。が、それは毎日鳴るようにセットしてあった携帯のスヌーズ音だった。
そろそろ大学に行く時間だ。