Side Yellow
□+ 第五幕 +
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+*+ 第五幕 +*+ 『馬鹿にしないでもらいたいね』
練習試合当日、真琴は自宅で支度をしていた。
真琴達はマンションの6階に住んでいる。
両親は海外出張が多いため普段は真琴と真守の二人の生活だが今は真琴一人だ。
洗面を済まし、鏡の前で薄茶の髪をとかし、赤いピンで前髪の左側をクロスにして二箇所止める。
青嵐の赤と黒が基調のジャージを羽織りファスナーをしめた。
最後にバッグの中身を確認。
「携帯、財布・・・ユニ。あと、バッシュ。」
全部ある・・・頷き玄関へ向う。
「いって来ます。」
誰も居ない部屋に声を掛け、外にでてドアに鍵を掛けた。
マンション近くの公園では早乙女が待っていた。真琴を見つけた早乙女が大きく手を振る。
「おはよ。」
「おはよう、鈴鹿。」
こつんと互いの拳同士を合わせた。
「今日の練習試合の場所は海常だよな。」
「そうだ。アウェーだからコンディション崩れないようにしないと。」
「お前、そんなに軟弱じゃないだろ?」
真琴は早乙女の肩をどつく。早乙女は方を摩りながら真琴を睨んだ。
「いって!!あのな、それなりにトラウマってもんがあるの。」
トラウマ・・・それは真守が怪我をしたあの試合のことだ。
「大丈夫、あんな思い二度とさせないようにオレが頑張るから。真守の仇はオレが討つよ。だから、思い切り楽しもうな。」
真琴の切迫した表情に早乙女は息を飲んだ。真琴が急に走り出す。
「アップついでに学校まで競争。勝った奴がアイスおごりだ!」
「―――・・・っておい、待てよ!!」
早乙女が真琴を追い駆けていった。
+ * +
真琴達は青嵐で高円寺達と合流し海常高校に向った。
海常高校が見えてくる・・・校門の前では黄瀬が待っていた。
「ようこそ、海常高校へ。案内するっス。」
黄瀬の案内でアリーナに案内された。
アリーナは真ん中のネットで仕切られ片方の半コートでは海常のバスケ部員が練習をしていた。
「半コート?」
海崎が難しい顔をする。
高円寺は周りをみた。
もう片方の開いているコートではレギュラーメンバーではなくどうやら二軍メンバーと思われるプレイヤーが準備をしていた。
急激に高円寺の表情が冷める、笑っているのは口元だけだ。
「どういうことだ?相手は二軍で、半コートでやれってことかな?」
目を細め黄瀬を見下ろす。高円寺の低い声に黄瀬が肩を震わせた。
「そ・・・それはっスね・・・」
静かに怒る高円寺の迫力に黄瀬が慄く。恐くて聞かれた質問に答えられない。
「あの・・・それは・・・」
「すまん。監督の指示なんだ。」
その時だ笠松が黄瀬のフォローに入る。
申し訳ないという視線を送る笠松に高円寺は冷ややかな視線を送った。
「なるほど・・・予想はしていたが、負けたチームは半コートで十分というわけか・・・。」
「随分馬鹿にされたもんだな・・・。」
窓辺の表情が険しくなる。
「調子に乗りやがって・・・」
早乙女が舌打ちし、そのうしろで真琴が黄瀬と笠松の方を睨んでいた。
「―――・・・・うちのエースを駄目にしたのはどこのバスケ部だよ。」
真琴は静かにつぶやき、その台詞を聞いた早乙女は唇を噛み締める。
怒りのあまり今にも前にでそうな真琴と早乙女の肩をライラは掴み制した。
「監督どうしましょうか?」
高円寺がライラの方へ振り向く。ライラはしばらく考え・・・
「このまま試合をしよう。」
「監督?!」
その言葉に早乙女が突っかかる。高円寺は彼を視線で止めた。
「アンタ達はすぐにアップ。私は武内監督へ挨拶にいってくる。」
ライラは胸元のネックレスを弄りながら、高円寺達から離れていった。
ライラの様子に高円寺ら2、3年と真琴の動きが止まる。
引き止められた早乙女は高円寺に抗議した。
「何で監督はこのまま試合をさせるんですか?!このままだと舐められっぱな・・・・」
「まずい・・・」
話が終わらないなか、高円寺から言葉が漏れる。
早乙女は高円寺の様子の変化に抗議をやめた。
皆、同じような引き攣った表情をしている。
「先輩・・・?鈴鹿・・・?なんで皆黙ってんだよ。」
早乙女の問いに答えることなく海崎は口元に手を当てプルプル震え、高円寺と窓辺は顔を見合わせ深く溜息を吐いた。
早乙女は真琴へ振り向く。
「なぁ、なんなんだよ。」
「そうか、早乙女は知らないんだ。」
真琴は早乙女を見てから高円寺のほうへ視線をうつした。
高円寺はそれを合図に早乙女に説明を始める。
「監督が海常に怒った。監督は苛々している時にネックレスや耳のピアスを気にするのがクセなんだよ。」
「滅多に怒ることがないから余計に怖いんだ。」
窓辺が冷や汗を拭く。海崎は震えながら武内監督とライラの様子を窺う・・・
笑顔で武内と話しているライラの姿に肩を大きく震わせた。
「・・・今回はやばいよ〜。」
高円寺は小さく笑った。
「今回は多分俺らよりも監督のほうが相当怒ってるな。今日の試合は大荒れになりそうだ。」
その言葉に早乙女は息を呑んだ。
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