ヴァンガード小説
□氷上のロマンス
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アイチ達(+α)はスケートリンクに遊びに来ていた。
季節も終盤なため人も少なく、ほぼ貸切状態なため、全員のテンションが上がる。
「皆さん〜!寒さで縮こまった羽根を存分に伸ばしてくださいね〜」
言いながらスイ〜、とアイチの脇を滑り抜けていく店長。
「アイチ〜!先、行くね!」
「待ってくださいよ〜。エミさ〜ん!」
カムイはツルツル転びながら、軽やかに滑っていくエミを必死で追いかけていく。
(カムイくん…、がんばるなぁ…)
その様子を横目で見ながらアイチは感心していた。
それにくらべて…
アイチはリンクの角で、内股になってプルプル震えていた。立つだけで精一杯だ。壁から手を離すと、尻もちを着いてしまう。
(さむい…!)
防寒着を着込んでいるが、氷の上に立っているだけで、足元から冷えてくる。アイチの羽根は、寒さと怖さで完全に縮こまっていた。
森川は井崎にプロレス技を仕掛けている(ように見えるが、おそらくしがみつこうとして巻き添えにしている。)し、ミサキは…寒いから嫌。と早々にこの場から離脱した。
(あっ…)
「櫂ー!昔みたいに競争しようぜ!」
例によって三和に無理矢理連れて来られた櫂は、ため息を吐きながら三和の後を追いかけて行った。
二人はリンクの向こう側へ、あっという間に行ってしまった。
(かっこいいなぁ、櫂くん…//)
アイチはほれぼれと見惚れていた。
「へへっ…!
オレの…勝ちだな…ハァハァ…」
「うるさいっ…、息切れしてるくせにっ…」
どうやら軍配は三和に上がったらしい。
(あんな遠くまで…。二人ともさすが…)
「もう一戦やるか…?」
「望むところだ…、」
呼吸を整えた櫂はふと、何かを探すように辺りを見回した。
「…どした?」
櫂の様子を見て、三和も同じ方向に顔を向けた。
(…ああ、)
そうして、櫂の目当ての人物を見つけた。
(ふふん、)
三和はニヤッと笑うと、手袋をした手で櫂の背中をボンッ!と勢いよく叩いた。
「⁈」
思いの他強く叩いてしまったようで、櫂は顔を顰めて無言の抗議の目を向けたが、ニヤニヤと緩んだ三和の顔を見てそっぽを向いた。
「行ってやれよ、カ・レ・シさん?」
「…悪い。」
櫂はポツリとつぶやいて、まだ入り口付近で、壁に掴まり立ちをしている恋人の元へと向かって滑って行った。
櫂の思いがけない言葉に、三和は目をしばたたかせた。
それから、何だかむず痒い気持ちに駆られて鼻をすすった。