ヴァンガード小説
□恋風(続き)
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あれからアイチは、櫂と彼女に出くわすことを怖れ、店に行くことを避けていた。日常の一部となっていたヴァンガードも全く手に付かなくなっていた。櫂と自分を繋ぐアイチの宝物。ケースにしまい込み、目に触れないようにしていた。どうしても櫂のことを考えてしまうからだ。ヴァンガードは櫂との絆そのものだからだ。
ヴァンガードがない日常は実に味気ない。
このままじゃまた1人になってしまう…
店と反対の方向に1人でトボトボと歩いていると、
「おや、アイチ君じゃないですかー」
奇遇ですね。とにこやかに現れたのは、弱った心身に毒な愉しげな声と真っ赤な髪。
「…レンさん…」
「…どうしたんですかー?
何だかとっても悲しそうな顔してます。」
指を鳴らすと小綺麗なティーカップに注がれた紅茶と、焼きたてのクッキーをアサカが運んできた。
どちらも甘い香りでアイチの鼻と空っぽの胃を刺激する。最近ろくに食べてなかったから正直耐えられない誘惑だ。
「大丈夫ですよ。毒なんて入ってませんから。」
レンはマイペースにあーん、とクッキーを頬張る。
「いえ…あのう……」
なんで僕は、こんなところでこの人とお茶してるんだろう。
促されるままにカップを口に運ぶ。甘い香りと少しの苦味が優しく喉を潤してくれた。
「レンさんは今…櫂くんのこと、どう思ってますか。」
「どうって…好きですよ。
友人として。」
ビックリした?と茶化すように言うレンにアイチはガックリと項垂れた。
「憎らしいけれども大切な存在だと思ってます。友人であり、ライバルであり……良くも悪くも刺激的な存在です。」
過去の確執を乗り越え、友人として櫂の存在を受け入れた、レンの度量の広さに感心した。
「アイチ君はどうなんですか?櫂のこと、大好きでしょう!」
否定も肯定もする前に断言されてしまった。
「けんかでもしたんですか?櫂は怒りんぼですからね。」
今のレンにならアイチは打ち明けられる気がした。