小説1
□だって君が笑うから
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「やむぅ!ぜーんぜん飲んでないじゃん!ほら、飲んで飲んで」
「んー?飲んでるわよ」
ピスティに差し出されたグラスを受け取ると、勢い良く飲んでいく。
「おっ!いい飲みっぷりじゃん、ほらもっと飲みなよ〜」
空になったグラスを置いて、次の酒へ手を伸ばした。
それでも、いつもより飲むペースが遅い気がするのは、決して勘違いなんかではないだろう。
減っていく酒に満足したのか、それとも既に酔ってるせいか、ピスティもマスルールも気付いていないようだ。
「あら?シャルルカンったら今日はやけに静かじゃない。……あっ、もしかしてあんたもフられたとか!?」
「ヤムライハさん、先輩はフらる前に彼女なんか居ませんよ」
「うるせぇ、今考え事してたんだよ。邪魔すんな!そしてマスルール!てめぇ失礼なこと抜かすな!」
「はぁ、すんません。本当のこと言って」そう言いながら悪びれる様子もないマスルールはこの際どうでもいい。放っておこう。かなりムカつくが!
爆笑中のピスティは論外。
それよりも、あんたが考え事ー?なんて言って笑うヤムライハに、怒りより悲しさが大きくなる。
(何で笑ってんだよ)
「あー、飲みたりねぇ!お前の寄越せよ」
シャルルカンは言い終わる前に、半分程に減ったヤムライハのグラスを奪い取るようにして、一気に中身を飲み干してしまった。
「甘ぇ…」
舌を出して眉間に皺を寄せるシャルルカン。
「ちょっと!人のお酒奪っておいて、なーに文句言ってんのよ!」
大体あんたはねー
なんて言いながらネチネチと小言を言い始めるヤムライハ。
「悪りぃけど、こいつかなり酔っ払ってるみたいだから連れて帰るわー」
「はっ!?」
パッと振り向くヤムライハを他所に、シャルルカンは財布を取り出すと二人分のお金を机の上へ置いた。
「ほら行くぞ」
「ちょっと、私まだ……っ」
「いいから帰るぞ」
全然酔ってないヤムライハの腕を掴むと、そのまま引っ張っていく。
頭に?を沢山浮かべてされるがままついて行くことしかできない。
「ちょ、ちょっと、シャル……!」
「………」
無言で連れて行くシャルルカン。
居酒屋の戸が閉まるのを確認すると、マスルールとピスティは顔を見合わせて軽く肩を竦める。
マスルールの手の中にはメニューが握られており、焼き鳥と他は何を頼もうか、再度メニューへと視線を落とした。
「頑張れ、シャル」
ピスティの呟きは店の騒音へ掻き消されていったのだった。
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