黒バス短編

□先輩との秘密
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 今週の部室の鍵開け当番である涼葉は早めに家を出て、先日リコから預かったバスケットボールのキーホルダーが着いた鍵を使用し部室を開けた。もちろんのこと誰もいない。しかも早めに来すぎたせいで、あと30分以上1人で待たなければいけないことになってしまった。
 読書するための本は持ってきているが読みたい気分ではない。予習はしてきてあるし、今日は小テストもない。どうしようかと迷った挙句、彼女は迷いなく体育館へと向かった。

 誰もいない体育館は少々不気味だったが、電気を着ければ怖いことはない。明るくなってきたところでオレンジ色のバスケットボールを取り出し、1人でシュート練習を行う。
 中学時代、たった半年ほどではあるがバスケをやっていた身だ。簡単なレイアップなどは出来る。今はマネージャーをしているが、プレイすること自体も涼葉は大好きなのである(下手なだけで)。久々の感覚に胸を躍らせ、制服であることも忘れてひたすらにシュートを決めていく。



「お、早いな。しかも1人で練習だなんて熱心だな〜」
『うわぁあああぁ!!き、木吉先輩!!?』



 3Pシュートでもやろうかと少しゴールから離れた時だ、後ろからにゅっと何かが涼葉の肩口から現れた。驚いて悲鳴を上げ正体を確認すると、先輩である木吉鉄平が腕を組みながら立っていた。
 飛び上がって避けると面白そうにケタケタと笑っている。



「そんなに驚かなくてもいいだろ?どうしたんだ、こんなに早く来て」
『え、あ…今週は私が鍵当番なんです。だから部室開けに来てて…』
「暇になったから1人でバスケをしていた、ってところか?」
『うっ…おっしゃる通りです』



 誠凛高校バスケ部を創り出した先輩にヘタクソなプレイを見られたのが恥ずかしいのか、耳まで真っ赤にしてボールを持ちながらもじもじしている。それを木吉もきちんと感じ取ってくれ、にっこりと笑って涼葉の頭をがしがしと撫でつけた。



「いいじゃないか練習したって。楽しくなきゃバスケじゃないしな!」
『うぅ〜…だって恥ずかしいじゃないですか』
「ん?何がだ?」
『バスケが上手い先輩にヘタクソなプレイ見られるのですよ!私もう恥ずかしくて湯気が出そうですよ〜』



 ふぇ〜!と妙な声を上げながら涼葉はボールを抱えてしゃがみ込んだ。その様子が何やら小動物のようで、木吉は少しだけ胸がきゅんとなる。
 自分もしゃがみ込み、もう一度涼葉の頭を撫でつける。



「下手なのが気になるんだったら、俺がバスケを教えてやろうか?」
『…えっ?』



 キョトン、という音が涼葉の頭上から聞こえた。



「だから、下手なことで自分のバスケに自信が持てないんだったらもったいないだろ?俺が練習に付き合って榊を上手くさせて、自信を持てるようにするんだ」



 「うん、俺天才かもしれないぞ」と顎に手を当てて自分に酔っている木吉と、まさに開いた口がふさがらない状態でポカンとしている涼葉。その状態で数十秒、涼葉の方がはっと我に返った。



『いや、でも先輩…』
「今週はこれぐらいの時間に来いよ〜?俺も来るように頑張るから」
『え、でも…』
「遠慮すんなって!バスケ好きになってくれる奴が増えるってだけで、俺すげぇ嬉しいから」



 ニッコリ、輝かしい笑顔で木吉は「な?」と同意を求めた。つい反射的にこくんと頷いてしまった榊に、木吉はぎゅむっと軽く抱きついた。



『ひゃ!』
「よしよし!可愛い後輩のために、先輩は一肌脱ぐぞ!」



 こうして、木吉と涼葉の秘密の朝練が幕を開けるのであった。



先輩との秘密
(実は一緒にいたいだけの口実だなんてことは言わないよ)


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