短編(その他)

□君を待つ
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沖神

「おう、誰かと思えばチャイナじゃねえですかぃ。こんな真っ昼間に酢昆布しゃぶってるとはいい御身分でさぁ」

「そのセリフ、、お前にそのまま返すぞこのサボリ魔野郎。人に指摘する前に仕事するがいいヨ」





公園にて巡回をサボってベンチに横になっていた沖田の目に、赤いチャイナ服のお団子頭をした少女、万事屋の紅一点である神楽が映った。しかし、当の少女はこちらに気付かないようで、少しふさぎ込んでいた。


退屈しのぎになるだろうと、沖田はいつもの憎まれ口を叩いた。

すると案の定神楽は売り言葉に買い言葉で応戦した。
また始まったよ、といった風に周囲の人間はチラッと二人に視線を向けてすぐ、何事もなく通り過ぎていった。

「今はおめぇに付き合ってやる気分じゃないネ。とっとと立ち去るヨロシ。」依頼を失敗してしまい、銀時と喧嘩して飛び出したため虫の居所が悪かった。


「それは聞けない話でぇ。こっちは土方のヤローにどやされて神経がすり減ってんだ。一服する貴重な時間を無駄にはできないってもんでさぁ」

「いやそれは絶対ないネお前。つーかストレス社会に生きる社会人に謝れヨ」
そこまで言って神楽が反撃に出る。



「お前、本当に口の減らない野郎アル。こんな奴が警察だなんて世も末ヨ。」
「オメーの所は相も変わらず仕事ねえみたいで。まるで仕事干されたサラリーマンみたいでさぁ。」

「んだとこらぁこの給料泥棒が!てめえら真面目に仕事するのは捕り物ぐらいで後は何かと問題起こしてばっかじゃねえアルか!警察なんかよりこっちのがよっぽど人様の為になってるヨ」

「何が人様の為だか。そっちの依頼成功率なんざ知れたものでしょう。」

「なにをぉ!?やるかコルァ!!」

「上等だぁ。かかってこいやチャイナぁ!」


そうしてまたいつもの如く公園は戦場へと変貌していった。






戦いの火蓋が切っておろされたものの、神楽がいくら殴りかかっても沖田は受け流すかかわす程度で本気で相手をするつもりがないようであった。


何アルかこいつ涼しい顔しやがって。
ムカつくアルその顔面ひしゃげさせてやるネ。



「サド野郎覚悟!」
いきり立った神楽が渾身の一撃を顔面に食らわそうと拳を振り上げた。
しかし怒りのせいか拳の目標が定まらず、難なく沖田によってその腕を掴まれた。

しまったと冷静さを取り戻した神楽であったが、一瞬の気の緩みを見抜かれ、腕を引き寄せられた。

体勢を崩した神楽を沖田は抱き寄せ、頬にリップ音を鳴らしたのだった。
あまりの行動に混乱したが、我に返って何が起きたかを認識した。
途端、急激に神楽の顔は火照りだした。


「……なっ…何をするアルかこのサド野郎〜!!!」

あまりの不意打ちに軽くパニックになりながら、愛用の傘を向けマシンガンを乱射した。


「うおぁぁっ!!危ねえじゃねえですかぃチャイナ!シャレにならねぇよ!!」

そう叫びながら沖田はなんとか銃弾を回避した。
焦っていたためか傘をもつ手元が狂い、照準が定まってなかったのが幸いしたようだ。

「お、お前何を考えてるネ!こんな時にき…キスなんてすんじゃねえよ気色悪い。」
恥ずかしいのか、だんだん小声になっていった。

「んだぁその程度で。だからお前はガキだってんだよ。」

対する沖田は平然としており、いつものサド王子の顔であった。



悔しかったら経験値積みやがれ〜、と彼は手をヒラヒラさせながら背を向けて巡回に戻っていった。




残された神楽は只その場で呆然と見ているしかなかった。

未だにうるさい心音や顔の火照りが収まる事はなかった。


「なんだよアイツ…ちょっと顔がいいからって軽々しくこの神楽様にチューなんて…」

今度マヨにでもちくってやろうと考えながら、万事屋へと歩を進めたのであった。

銀時へのイライラがなくなっていた事にも気付かぬまま。





「…アイツの顔、あんなに柔らかかったのか」

あの後、沖田は屯所に戻り、何時もの如く土方の説教を右から左に流した。

その後勤務が終わった後まで、神楽の頬の感触が忘れられずにいたのであった。
あの場では平然としていたつもりであったが、あまりの感触に、涼しい顔を気取るのも正直ギリギリだった。からかってやるつもりだったのに…なんだってんだよったく…


まだ二人はその想いの正体に気付く事はなかったのであった。
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