HP(特殊設定)

□弟は要領のいい生き物です
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「うまくやっているらしいですね。お母様もとても喜んでいらっしゃいます」

危なげなく紅茶をサーブして、レギュラスが小さく首を傾げた。狙っているのではないかと疑いたくなるほどに、完璧に自分の顔を引き立たせる動作。さらりと流れて頬に落ちかかった髪のひと筋ひと筋まで、魔法で調節していやしないかと少々疑った。
その思いが顔に出ていたのか、ものすごく胡乱な顔をされた。

「…お前は、喜んでくれない訳」
「拗ねているんですか?僕に褒められたって、嬉しくもなんともないでしょう」

世話の焼ける人、と嘆息とともに吐き出し、テーブル越しに手を伸ばされる。その手を両手で包んで、その指先に小さくキスを落とした。くすぐったそうに指が逃げる。
「褒めてくれないなら、ご褒美くれ」
「…いやですよ、犬相手じゃあるまいし」
「おいそれは俺の動物もどきは犬だってことを暗にからかってるのか?」
「まさかそんな。疑いすぎですよ」

まふ、とレギュラスがマフィンにかぶりつくのを見て、シリウスもそれに倣う。甘さが控えめのそれは、自分とお茶をするからとわざわざレギュラスが母とともに焼いたものであるらしい。先ほどまで自分と話していた母がこっそりと教えてくれた。

スリザリンに入り過ごす、それだけでこれほどまでに平和だった。

学校では、自分から見たら子供な周囲と付き合うのが面倒で親族以外とは距離を保った付き合いをしている。ジェームズとはどちらかといえば互いに嫌いあう仲だろう。スネイプとは悪くもないが良くもない。エバンズは、その明るさに救われる部分がなくもない。リーマスは全く接点が無くなってしまった。
それでも、後悔は今のところ、していない。それなりに今の生活も充実している。

なにより、今目の前にいる弟の存在が、大きかった。

あと半年。それだけたてば、目の前のこの存在がホグワーツにやってくる。
前とは全く違う関係を築こうと、二人で約束した。純血をまとめるのは、リーダーシップのある自分が。血気盛んで正義を重んじる者たちは、穏やかで「誰よりもグリフィンドールに相応しい」とまで言われたレギュラスが。二人でまとめあげて、二人で模範を見せようと約束した。…それは、言うなればグリフィンドールとスリザリンの橋渡し。
母には、レギュラスはグリフィンドールに向いていると告げてある。レギュラスがグリフィンドールに溶け込み友が増えれば、更に純血のものたちと交流を持つことも、情報を得ることもできるだろうと進言した。純血のブラック家こそが、そうでない者との橋渡しをせねばならぬのだと説得した。―――レギュラスは、兄の、次期当主の命令でグリフィンドールに行くのだと、告げた。
そもそも、名からしてレギュラスこそがグリフィンドールに行くべきだったのだと、今なら思う。レギュラス。しし座の心臓部分で輝く、美しい星。

「…ご褒美の件ですが」
「うん?」
「兄様の欲しいものが、思いつきません」

もきゅもきゅと口の中でマフィンを咀嚼してから、レギュラスがそう言う。こころもち視線は頼りなく揺れ、シリウスのものと合わないよう伏せられていた。
「バイク…は流石に買えませんし」
気まずそうにちらりとこちらを見上げた彼に、苦笑する。それにレギュラスはむっとしたように目を座らせた。
「…じゃあさ、レギー」
手を伸ばして、トン、とレギュラスの心臓の上に指先を置く。それに不思議そうに目を瞬かせたレギュラスに、シリウスは微笑んだ。

「お前のここに、いつも俺のこと、おいといてくれよ」

「……いつだって、兄様が一番ですが」
「そうなのか?じゃあ俺たち両思いだな?」
「あ、そういう変な言い方はよしてください」
レギュラスがすっぱりと戯言をと切り捨てる。もきゅもきゅ。可愛らしく小動物か何かのように頬を動かしながら、こくん、と口の中のマフィンを呑み下して。
「ぎゅーならして差し上げます、ぎゅー」
受け入れるように、腕を広げた。貴族っぽい、たっぷりとフリルの使われた絹のドレスシャツが弱い日差しを反射する。それに苦笑しながら近づき、シリウスから抱きついた。
ふにゃふにゃと、柔らかい。子供体温なのか、じんわりと温かさがしみる。

「…お前、子供として順応しすぎ」
そう照れかくしも兼ねて呟けば、だって一人じゃ何もできないんですよと言って髪を撫でられる。
「着替えもおやつを取るのも買い物に行くにも、全部お母様やクリーチャーを頼らなければ出来ないんです。僕は子供ですからね」
「…中身17歳の癖に」
「あ、そういうことを言うとぎゅーしませんよ?にいさまの中身が30越えたおじさんだと思うと寒気が」
「ごめんごめん、レギーは可愛い9歳の俺の弟だよ」
さらさらと指通りのいい髪を撫でながらそう笑って言えば、背に優しく小さな手が回される。

喉元でくすくすと悪戯が成功したといわんばかりに笑う姿が愛おしくて、シリウスはゆっくりと目を閉じた。


いつまでもこんな、温かな日が続けばいいと思いながら。

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