種運命

□『象徴』 sideKira
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『―――ですが、どうか皆さん、今はお気持ちを静めてください』

ピンクの髪を揺らし、少女は凛とした声で語りかける。そして悲しげに瞳を揺らし、目を伏せる。
その傍らで彼女を支えるように肩を抱いていた青年が、静かに、だが激情を抑えたことが分かる口調で紡ぐ。よく通るテノールが、毅然とした意思を持って響く。

『怒りに駆られ、思いを叫べば、それは新たなる戦いを呼ぶものとなります』

痛みを宿した翡翠が、画面の向こうへと強く向けられる。
その姿に、息を呑んだ。



「…アス、ラン…?」

その名を呟いたのは誰だったか。
癖のある藍色の髪。鮮やかな翠の瞳。優しげな面差しは、女性と見紛う程に美しい。

アスラン。カガリの、ラクスの情報網を以ってしても今まで全く消息のつかめなかった青年。2年前の大戦でアークエンジェルと共に戦いぬいた、戦友。
戦後まもなく、彼は亡命先のオーブから姿を消した。突然、何の前触れもなく。

「…アスランと、ラクス…?」

キラが呆然と囁き、隣に座るラクスを見る。ラクスも困惑した表情でキラの視線を受け止めた。

「あの方のお姿…それに、アスラン…。一体、プラントで何が…?」

『常に平和を愛し、今もより善き道を模索しようとしている皆さんの代表、最高評議会とデュランダル議長を、どうか信じて…今は落ち着いてください…』

画面の中のアスランは雄弁にそう語りかけ、耐えるように目を閉じる。その腕にそっと、ラクスにそっくりの少女が手を添えた。その手に、アスランが手を重ねる。
しっくりと噛みあってそこに並ぶ二人の間で、視線が交わされる。アスランが頷き、少女がすぅっと息を吸う。

流れ出す調べ。それに乗せて、少女は透き通った声で歌う。傍らに“対の遺伝子”を置いて。
プラントの望む“希望”。あまりに出来すぎたそれ。

「…議長は一体、何を考えてるんだ!?」

カガリが皆の気持ちを代表するように叫ぶ。それを受けてラクスがゆっくりと、考えをまとめるように口を開いた。

「…デュランダル議長は、『ラクス・クライン』と『アスラン・ザラ』のプラントにおける影響力を利用しようとなさっているのかもしれません…。わたくしとアスランは、プラントで“対の遺伝子”と、次世代への希望であると謳われておりました。政治においてもその発言力は大きいでしょう」

「ラクスは『平和の歌姫』として、アスランは『ヤキンの英雄』として認知されてる。プロガンダとしては最適かもしれない」

キラも同調するような意見を言う。画面へ向ける視線は自然、厳しい。
「アスランはきっと、議長に騙されてるんだ。…助けてあげなきゃ」
そう決意したように呟くキラに、カガリが勢い込んで頷く。
「…そうだな!キラ、プラントに行ってあいつの目を覚ましてやれ!シャトルは私が用意する!」
「わたくしも参ります。わたくしの姿をなさっているあの方もきっと、デュランダル議長に騙されておいでなのですわ。救って差し上げなくてはなりません」
ラクスも決意したようにそう言い、キラと視線を交わして微笑みあう。

次の日、オーブからプラントへの特使として、茶髪の青年と桃色の髪の少女が宇宙へと飛び立った。
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