★小説★
□永遠のエロ
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だから今日はくよくよしないで
今日の風に吹かれましょう
──中島みゆき『時代』より
【永遠のエロ】
『お前ら静かにせ〜よ!』
坂ノ下商店の烏養繋心は烏野高校のサッカー部のメンバーに対して怒鳴っていた。
ここ坂ノ下商店は烏野高校の生徒にとって憩いの場のようなものになっている。
小さい店内に魅惑的な食べ物が陳列されており、
それをこの場で食べられるテーブルが用意されているからだ。
だが店番の烏養はそんな生徒達に平気で怒号を与えるのであった。
体裁的には聞き分けのない生徒達にマナーを教えているということだ。
『すすっすいません!ほら、お前ら行くぞ!』
サッカー部のキャプテンが部員らを連れて外に出て行く。
そんな様子をもう一つのテーブルに座っていた影山がクスリと笑って見ていた。
『…何がおかしい?』
烏養は煙草を吸いながら店のカウンター内で影山に話しかけた。
目線は手元の雑誌に向かっている。
『いえ…なんか懐かしいな〜って思って。』
影山は頬杖をつきながら答えた。
『何が懐かしいんだよ。』
烏養は雑誌の袋とじをはさみで切りながら聞き返す。
どうやらその雑誌は少々エッチな写真が盛りだくさんのようだ。
『ほら、烏養さんがコーチになってくれてからバレー部には親しい存在じゃないっスかぁ?でも前はオレらも坂ノ下の兄ぃちゃんは怖いから気をつけろって話してましたからw』
影山は烏養の読んでいる雑誌にちょっと興味を持ったが、
知らないフリをして自分の買ったマンガ雑誌に目を落とす。
『ま〜…俺はもともとガキは嫌いだからな。特に聞き分けのねぇうるせぇガキは…な。』
袋とじを丁寧に切り取った烏養は
雑誌の中身を見ながらにやりと笑った。
『…お前も見るか?』
烏養は読んでいた雑誌のいかがわしい写真を影山にちらつかせながら聞いた。
『///いえ…俺、今黒バス読んでるところなので。』
影山は顔を赤らめて断りを入れる。
『なんだ…お前バレー部のクセに黒子のバスケなんて読んでんのか?』
烏養は笑いながら雑誌を横に放り投げる。
『バレー部関係ないと思いますけど?』
影山も雑誌を閉じ、かばんにしまいながらそう言った。
もう坂ノ下商店は閉店の時間だった。
それを知っている影山は一応雑誌をしまって帰り支度をするフリをしたのだ。
『珍しいな。みんなもう帰ったのにお前帰らねぇの?いつもは日向と一緒に出て行く癖に。』
烏養は店のシャッターを半分だけ降ろしに入口の辺りに歩いていく。
電気を半分消して閉店準備万端だ。
『…はぁ、ま〜何となく。。。』
実は今日は影山は家に帰りたくなかったのだ。
ガララ
烏養がシャッターを降ろす音が聞こえる。
影山はケータイの画面を見ながらうじうじ椅子に座りっぱなしだ。
烏養は再び店内に戻って来るとポンと影山の肩を叩いた。
『……?』
影山が烏養を見上げると、コーチは目線を合わせずに店の奥に向かいながら
『飯でも食ってくか?』
と言ったのだった。
理由も何も聞かれない。
ただただ飯でも食ってくかと言ってくれる大人の対応。
影山はシュンと頷いて烏養に導かれるままに店の奥、烏養の家に上がらせてもらったのであった。