★小説★
□恥辱の黙示録
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身のほど知らぬ恋でしょうか
幸福せ求めちゃいけないでしょうか
──葛城ユキ『ボヘミアン』より
【恥辱の黙示録】
5月の仙台駅は爽やかな風が吹いていた。
影山は今、仙台駅の前にいる。
駅前のロフトで雑貨などを買いに来たのである。
ロフトの出口から大きな歩道橋に出て左に歩く。
そして人通りを避けるようにパルコ方面に向かって歩いていった。
お小遣いも持ってきたし、パルコで買い物でもしようと思ったのだ。
影山はよく一人で買い物に駅前に来る。
友達とみんなで買い物するのもイイのだが、一人の方が自由に動けるから好きなのだ。
今日の影山は細身のデニムにグレーのジャケットを着ていた。
Tシャツは白を基調とした柄モノ。
フード付のカーディガンを着ているので、ジャケットからフードを覗かせてみた。
影山にしてみれば精一杯オシャレをしてきたつもりである。
パルコは概してオシャレな若者が多い。
店内に入って気後れしない為の対処法であった。
ふと影山はパルコ入口の前で右手を見た。
スーツの男が一人で立っている。
その男は黒のスーツにシルバーのネクタイをしていた。
なんだか落ちつかなさそうに煙草を吸っている。
背が高く、長い髪を後ろにひっつめて束ねている姿は非常に目立った存在だ。
いかにもオトナの風体に影山はほうと息をつく。
すると影山は意を決したようにその男に近づいていった。
近づくとふわりと煙草の香りが漂ってくる。
まったく…未成年の煙草は法律違反だ。
…そう突っ込みたいのだが、見た目が社会人の彼は誰にも見咎められることがない。
その男はまだ影山に気づいていない。
何やらそわそわして、駅の出入り口方面にずっと目線を送っているからだ。
足音を忍ばせ影山は声をかけた。
『東峰先輩♪』
するとその男は驚いたように体を跳ねさせ影山の方を向いた。
『あ??かっっか、かかか影山!?』
意表を突かれたのか東峰はよほど驚いたように目を丸くする。
影山はそんなヘタレな先輩の仕草を見て、思わずくすりと笑ってしまったのであった。