★小説★
□セクソシスト
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まるで喜劇じゃないの
ひとりでいい気になって
冷めかけたあの人に意地をはってたなんて
──渡辺真知子『迷い道』より
【セクソシスト】
『あ!大魔…及川さんだ!!おーい!!及川さぁぁあん!!』
『あっっバカ!』
今日は青葉城西に勝手に日向と偵察に来ていた。
どこにいってもクソ明るい日向の野郎が目ざとく及川さんを見つけたようだ。
マジで空気読めないヤツだ。
偵察は秘かにするモノであって、相手に見つかったら厄介なことになるだろーが。
オレは別に及川さんなんかと喋りたくなかったし、
むしろ近づきたくないとすら思っている。
だけど…あ〜あ、日向の野郎が呼び寄せるからニコニコ顔で歩いてくるじゃね〜か。
『やぁやぁ君たち、お疲れ〜♪今日は偵察にでも来たのかな?』
ひらひらと手を振りながら及川さんがやって来た。
この底抜けに明るい性格がオレにはカンに障って仕方ない。
笑顔の裏側にあるドス黒い性格の悪さをオレは知ってるからだ。
『やっぱ大魔王様はサーブが凄いですね〜?』
日向が及川さんを褒めながら横に擦り寄っていく。
こ の ぶ り っ 子 が
『あ、いや、そ〜お?嬉しいね〜♪でもおチビちゃんも凄いジャンプ力だよね〜♪』
…ほれみろ。
及川さんって人間はちょっと褒めると図に乗るタイプなんだよ。
『お互い褒めあって気持ち悪ぃ…』
ついついオレは本音を呟いてしまう。
日向は日向で及川さんの横に近づいてぴっとりくっついている。
お前…近づきすぎじゃね〜か?
『あ〜…ヤダヤダ。こいつ昔っから可愛くね〜の。』
及川さんがオレを指差しながら舌を出してきた。
子供かこいつは。
『…それに比べてチビちゃんは素直で可愛い〜ね〜♪』
そう言いながら日向の頭をくしゃくしゃと撫でた。
『えへへ〜♪』
えへへ〜?
えへへ〜じゃね〜よ!このクソ日向。
一応年上って言っても及川さんは同じ高校生だぞ。
女ったらしで性格悪い高校生の男に頭撫でられて何へらへらしてんだ。
嗚呼…多分オレの今の顔、すっげ〜悪い顔になってると自覚出来る。
眉間にしわが寄っちまう。だめだポーカーフェイスだ。
『…お前何?機嫌悪いの?』
日向がきょとんとした顔でこっちを見つめてきた。
だから空気読めっつてんだよ。
及川さんから離れろ。
この男は敵のチームのセッターなんだぞ。
『トビオちゃんは昔から愛想ないからね〜♪気にしない気にしない』
言いながら日向の肩を抱き寄せて及川さんはオレを挑発する。
だからその手を離せ。
日向はうちのチームの人間なんだよ。
それに日向は女じゃね〜…及川さんは女にだけそ〜やってればいいんだ。
『影山クン、一応先輩なんだから及川さんには礼儀正しくしなきゃだぞ☆』
人差し指を立てて空中で拇印を押すような仕草をしつつそう言った日向の言葉。
そしてついついオレは口走ってしまった。
『いいから及川さんから離れろ!』
全く胸くそ悪ぃ。
そこはオレの位置なんだよ!