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□ミイラ
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「それ、片付けとけ」

「「やだ」」
即答だった。双子の書記は雑誌を見ている。こちらの方は見ない。
やだじゃねぇよ、と言いたいのを堪え「しとけよ」と先程と同じ意味の言葉を繰り返し言った。



「おい、会計。この集計見直せ」
「会長お願いしまーす」
ソファーで寝転がりながら会長が言った。
お願いしまーす、じゃねぇ。お願いします会長様だ、とまたしても言いたいのを抑えて「直しとけ」と言っておいた。多分また俺が直すはめになるんだろうけどな…。

「副会長、予算はどうだ?」

「順調ですよ、多分」
多分ってなんだ。副会長は紅茶を飲んでいた。お前ら仕事しろ、と言いたいのを泣く泣く押さえつけ「そうか」て返事した。

そうして俺は山のようにある書類と向かい合った。
…腱鞘炎と友達には、なりたくないな。






俺は生徒会長である。

誰がなんと言おうと、生徒会長なのである。











ここ、七岳学園に初めて来た入学式の日、俺は一言でいうならカルチャーショックを受けた。

「次は、生徒会の挨拶です」
司会がそう告げた途端、学生達は皆、体育館を揺らす程の絶叫を上げた。悲鳴の類いではなく、アイドルや何かに出会ったかのような黄色い声を、だ。

何かの間違いかと思った。


確かに生徒会と呼ばれているメンバーは、総じて美形だったが全員男だった。当たり前だ。この七岳学園は全寮制の男子校なのだから。
つまり黄色い声を上げていた奴等も皆、男だ。



その日、俺はカルチャーショックを受けた。
文化の違いってやつにだ。
日本には、こんな魔境があったのか…。


そして俺は思った。

この学園、…早く何とかしないと、と。
別に他の学校がホモの巣窟だろうが俺は気にしない。だが、ここは七岳学園だ。
金持ちの集まる、いわば将来国の中枢を担う人間の集まる場所だ。
少子化の原因とやらも担っているに違いない。


それから俺は頑張った。
どのくらい頑張ったってそりゃあもう、馬車馬の如くってぐらいは頑張った。
成績も下から数えた方が早かったのだが、今は上から数えた方が早くなったし、運動も、先生の雑用も、頑張ったのだ。

結局、生徒会は人気投票で決まると後から知って俺は崩れ落ちた。今までの努力は一体…!
仕方がないので、俺は前期生徒会会長っぽい性格にキャラ変更した。
そう、俺様キャラである。
元からその片鱗があったのか、直ぐに真似できた。
顔はもうどうしようも出来ないので、清潔感を保つように努めることにした。
俺様は俺様でも、まだマトモな俺様にすることも意識する。本気で嫌われたら元も子もないからだ。

そして二年生になり、俺は見事生徒会の会長に就任していた。
(三年生は受験に集中する為、二年生が生徒会を務めることになっている)

学園改革をするんだ、と意気込んでこれから仲間になる生徒会メンバーを見た瞬間、俺は膝から崩れ落ちそうになった。

生徒会は人気投票で決まるのである。
決してやる気で決まる訳では無いことを、今の今まで失念していた。
意地悪好きの双子書記にチャラい会計、敬語眼鏡の副会長…。
仕事しそうなのが副会長しかいない件について。
こんなパーティーじゃ、学園改革なんて夢のまた夢だ。
魔境を破壊なんて出来ない。
なんてこった。会長になったは良いがこれじゃあ駄目じゃないか。

魔境が現れた!

会計は寝ている。
双子書記は遊んでいる。
副会長の攻撃!魔境は5のダメージを受けた!
会長の攻撃!避けられた!

魔境の攻撃!パーティー全員に300のダメージ!

生徒会は全滅した!



俺は頭を振って、その嫌な想像を打ち消した。
でも、まあ…本格的な学園改革は先伸ばしにしよう。たった一年しか無いが仕方がない。準備を怠っては勝てる戦いも勝てなくなる。
頑張れ俺!今までも頑張ってきたじゃないか!


俺は心の中で、拳を上げた。


負けるな、俺!

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