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「あらら、昇ちゃん、新しいお友達?」
口に手を当て、穏やかに微笑むのは、オレの母さんだ。因みに昇ちゃんというのはオレの名前である。
そして一宮秋はあれから居座り続け、今現在夕食の時間まで、部屋でゴロゴロしていた。
アイツの肩をつついて、小声で「おい、お前いつ帰るんだよ」と言うと「飯食って帰る」と返事したので、頭を軽く叩いた。
その言葉通りアイツは夕食を食べて帰っていった。
マジで何がしたかったんだ…。
それからアイツは度々オレの部屋に来ては、オレをパシりに使った。
唯一の救いと言えば、気紛れにアイツがオレに勉強を教えてくれることぐらいだ。
それ以外はゴロゴロして、飯食って帰っていくことしかしない。
何とも傍迷惑なヤツである。
だが、一つオレには、不思議なことがあった。
アイツの家は此処等でも有数の金持ち一家である。
風の噂では、家に執事までいるらしい。
つまりーーオレにとっては非常に腹立たしいことだがーーアイツは自宅に帰って飯を食った方が、確実に旨い飯にありつける筈なのだ。
なのに、何故?
曖昧な事が余り好きではないオレは本人に直接聞いてみることにした。
結果「庶民の飯を食ってみたかった」だそうだ。食費返せ。
オレが正直に(というより口が滑って)そう言うと、アイツが「それもそうだな」と言って、胸ポケットから諭吉さんを数枚オレの手に握らせた。
それに慌てたのはオレである。
冗談のつもりでいったのだ。
金を取ろうとはオレも母さんも本気で考えなどいない。
慌ててオレは諭吉さんをアイツに返すと
「…いらないのか?」
心底不思議そうに聞かれたので「いらない!」とぶっきらぼうにかえした。
…本音を言うと欲しい。人間本音はそんなもんだ。
ただし、同級生から以外で、だが。