book

□彼女は不思議だ。と彼は言う
1ページ/1ページ


「なぁ、あいつってどんな奴なんだよ。」
「どんな奴、とは?」
マジバでまたしても遭遇した火神くんに問われる。
「あれだよ。今日、部活来てただろ。志田だよ。志田。」
「ああ。」
確かに居た。
カントクの隣に並んで僕らのプレーを見ていた。
「志田さんがどんな人か、でしたっけ?」
「おう。」
「一言で言えば不思議な人です。」
火神くんは首を傾げた。
「中学からああなんですよ。」
「中学一緒なのかよ。」
「でも、」
シェイクを一口飲み、息を吐く。
火神くんとのトレーにはバーガーの包みの山と食べてないバーガーが二個ほど。
「彼女は変わりましたね。よく笑うようになりました。」
「いいことなんじゃねぇの?何でそんな暗い顔してんだよ。」
暗い顔、とわかるまで暗い顔をしていたのか。と自分の頬を触る。
「笑うと言っても、本当に笑ってるようではありません。目はいつも笑ってません。」
「・・・そうか?」
「いつも人の心の内を見透かすようにして笑うんです。」
不気味だな、と火神くんは言った。失礼です。
「彼女は元帝光バスケ部のマネージャーですし、何より頭が良くて優秀です。とても頼れますよ。」
「あいつもキセキの世代知ってんのか。」
「・・・ええ。」
火神くんは興味なさげにバーガーに噛み付く。




『黒子君。志田さんてどんな人間なの?』



火神くんと似たようなことをカントクにも聞かれた。
だから同じように答えた。
世間から見れば彼女は、笑顔を絶やさない頭のいい子だと思われているだろう。
けれど、高校ではじめて会ったときは少しゾッとした。
前から良く笑う子だが、今は口端だけで笑っているみたいだ。
笑うことしか知らないみたいに。笑う以外の感情が欠落しているみたいに。
でも、それ以外は変わっていなかった。それには安堵したものだ。



「彼女は不思議で、とても良い子です。」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ